任意同行中の被疑者から令状なしで採尿した事案の答案に「憲法35条の令状主義に違反するため当該尿は証拠排除される」と書いたところ、採点者から「最判昭和53年9月7日の二段階審査の第2要件(排除の相当性)の検討がない」と減点された。「違法があれば即排除」という一段階の論理では不十分で、①違法の重大性——令状主義の精神を没却する重大な違法か、②排除の相当性——将来の違法捜査抑制の見地から排除が相当か、の両要件をそれぞれ論じなければ失点になる。
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
違法収集証拠排除法則は刑訴法に明文がなく、憲法31条(適正手続)・35条(令状主義)・刑訴法218条(捜索差押え)を根拠とする判例法理である。最判昭和53年9月7日(大阪天王寺覚醒剤事件、刑集32巻6号1672頁)は、排除基準として二段階審査を確立した。 第1要件は「証拠物の押収等の手続に、憲法35条・刑訴法218条の趣旨を没却するような重大な違法」があること。 第2要件は「これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められること」。 両要件を満たす場合にはじめて証拠能力が否定される。 軽微な手続違反は第1要件を満たさず、第2要件は捜査機関の故意性・悪質性・違法の反復可能性等を総合考慮する。
第1要件「違法の重大性」では、令状なしの強制処分・令状範囲を逸脱した処分・故意による違法が重大と判断されやすい。記載不備等の軽微な瑕疵は当たらない。第2要件「排除の相当性」では、捜査機関の態様(故意か過失か)・同種違法の反復可能性・証拠の重要性等を総合考慮する。 最判平成15年2月14日(刑集57巻2号121頁)では、強制採尿令状の執行違法について第1要件を認め証拠排除した事例として重要である。
毒樹の果実理論(最決平成21年9月28日等)は、一次証拠の排除が二次証拠の自動排除を意味しない点に注意が必要である。一次証拠と二次証拠の因果の強さ・希釈の程度を総合考慮し、三例外(独立源・不可避発見・希釈)のいずれかが認められれば二次証拠は許容される。 答案では一次証拠の処理後に「では本件一次証拠を端緒として発見した二次証拠について」と問題提起し、三例外を検討する流れを落とさないことが重要である。
違法収集証拠排除の5判断軸
① 令状主義の没却度
令状なしの強制処分・令状範囲の逸脱等、令状主義の趣旨を正面から損なう違法か否かを判断する。軽微な記載不備や手続の瑕疵は重大違法に当たりにくい。
② 捜査機関の主観的態様
故意による違法か、過失・錯誤によるものか。故意が認められれば排除の相当性が肯定されやすく、偶発的・軽過失の場合は否定されやすい。
③ 違法の反復可能性
放置すれば同種の違法が繰り返されるリスクがあるか。司法的統制による将来抑制効が期待できる場合、排除の相当性が認められやすい。
④ 一次証拠と二次証拠の因果の強さ
毒樹の果実の場面では、一次証拠の違法と二次証拠の関連性・希釈の程度を検討する。因果が弱く希釈が大きければ二次証拠は排除されにくい。
⑤ 三例外の有無
独立源・不可避発見・希釈のいずれかが認められれば二次証拠は排除されない。問題文の事実から該当可能性を検討し、認められれば「例外に当たり証拠能力あり」と結論付ける。
答案の5失敗パターン
① 二段階審査を一段階で終える
第1要件(違法の重大性)のみ検討して排除を結論付ける。第2要件(排除の相当性)の論述がなければ減点される。両要件を必ず論じること。
② 「違法があれば排除」と短絡する
令状主義違反があっても軽微な違法では第1要件を満たさない。また第2要件で排除の相当性が否定されることもある。最判昭53.9.7本件でも排除は認められなかった。
③ 毒樹の果実の論点を看過する
一次証拠の処理で答案を終えてしまい、派生する二次証拠の証拠能力を検討しない。問題文に二次証拠が登場する場合は必ず毒樹の果実理論を展開する。
④ 自白排除と混同する
「自白の任意性は二段階審査で判断する」と書くと誤り。自白排除は刑訴法319条1項の「任意性の疑い」で判断し、違法収集証拠排除とは別個の法理である。
⑤ 三例外の検討を忘れる
二次証拠が問題になるのに独立源・不可避発見・希釈の例外を検討しない。「例外に当たるか否か」を論じることで答案の体系性と得点が上がる。
よくある質問
Q. 違法収集証拠排除法則の根拠は何ですか?
A.刑事訴訟法に明文はなく、憲法31条(適正手続)・35条(令状主義)および刑訴法218条を根拠とする判例法理です。
最判昭和53年9月7日(大阪天王寺覚醒剤事件)が、証拠物の収集手続に令状主義の精神を没却する重大な違法があり、これを証拠とすることが相当でない場合に証拠能力を否定する、という排除基準を確立しました。
Q. 排除の二段階審査とは何ですか?
A.①違法の重大性(証拠収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるか)と、②排除の相当性(証拠として許容することが将来の違法捜査抑
Q. どのような違法が「重大」と判断されますか?
A.令状なしの強制処分、令状の効力範囲を逸脱した処分、捜査機関の故意による違法などが重大と判断されやすい類型です。
逆に、令状の記載の軽微な不備など手続的瑕疵が軽微なものは、重大な違法にあたらないとされます。違法の程度を事実に即して評価することが求められます。
Q. 毒樹の果実とは何ですか?
A.違法に収集された一次証拠(毒樹)を手がかりに得られた二次証拠(果実)の証拠能力の問題をいいます。
一次証拠が排除されても、二次証拠が自動的に排除されるわけではありません。一次証拠と二次証拠の因果関係の強さや希釈の程度を総合考慮して、二次証拠の証拠能力を別途判断します。
Q. 毒樹の果実の例外にはどのようなものがありますか?
A.①独立源の例外(違法な捜査とは独立した情報源から得られた場合)、②不可避的発見の例外(違法がなくても不可避的に発見されたといえる場合)、③希
Q. 自白の排除法則とはどう違いますか?
A.自白の排除は刑訴法319条1項が任意性のない自白の証拠能力を否定する明文の規定に基づくのに対し、違法収集証拠排除は証拠物についての判例法理である点が異なります。
答案では、自白の任意性の問題と証拠物の収集手続の違法の問題を混同せず、それぞれの枠組みで論じる必要があります。
Elencoで「違法収集証拠排除 二段階審査」「毒樹の果実」と検索すると、最判昭53.9.7・最決平21.9.28・最大判平29.3.15を条文ビューと横断して確認できる。AI演習機能では具体的事例を入力して二段階審査の当てはめと毒樹の果実理論の適用を対話形式で練習できる。