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公開 2026.06.25最終更新 2026.07.31

民法907条・遺産分割——3類型で書く協議・調停・審判【予備試験】

この記事のポイント

民法907条が定める遺産分割の手続(協議・調停・審判)について、906条の分割基準、預貯金債権を分割対象とした最大決平成28年12月19日、賃料債権を遺産分割の対象外とした最判平成17年9月8日、遺産分割協議の解除を否定した最判平成元年2月9日を踏まえて、予備試験・司法試験の答案で使える論証を解説します。

「遺産分割の対象って、預貯金は入るのだろうか入らないのだろうか」——民法907条の論点で、あなたが過去問の解答例を見ながら手が止まったのは、最大決平成28年で判例が変更されて以降、預貯金・賃料・代償金などの取扱いが整理しきれていないからではないでしょうか。本記事は、判例の立場で整理します。

民法907条1項は『共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる』と定める。だろうか——「協議が整わなければ家裁」と漠然と理解しているあなたは、本番で預貯金債権の取扱い(最大決平成28年12月19日)や賃料債権の帰属(最判平成17年9月8日)で論述に詰まる可能性が高い。 司法試験・予備試験では、分割対象財産をどう書き分けるかで合否が分かれる。 本記事は、判例の射程を一つの型として整理する。

この記事で得られるものは3つ。第一に、907条1項~3項の条文構造と906条(分割基準)との関係を正確に書ける。第二に、最大決平成28年12月19日が示した預貯金債権の遺産分割対象化を判例の文言通り引用できる。第三に、賃料債権・代償金請求権・遺産分割協議の解除可否など応用論点まで含めた現代的論点に対応できる。

1. 条文を正確に読む

条文
民法第907条遺産の分割の協議又は審判等

共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 2 遺産の全部又は一部の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。 3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

条文の構造を分解する。1項は協議分割の原則を定め、共同相続人全員の合意があればいつでも分割できる。2項は協議不調・協議不能の場合の家裁による審判分割を規定。3項は分割禁止の家裁の権限を定める。906条は『遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする』として分割基準を定め、両条が一体として遺産分割制度の根幹を構成する。 境界線をどこに引くかが、本論点の核心である。

2. 趣旨——遺産共有から個別所有への移行

相続開始により被相続人の財産は共同相続人に承継される(民法896条)。複数の相続人がいる場合、遺産は一旦遺産共有状態に置かれる(民法898条)。この遺産共有は、各相続人による遺産の利用・処分を制約する暫定的状態にすぎず、終局的には個々の相続人の単独所有に分解する必要がある。 そこで(i)907条が協議分割を原則とし、(ii)合意が成立しない場合は家裁の審判分割で強制的に確定させる、という二段階構造を採用した。 906条の分割基準が裁判所の裁量を画し、当事者の実質的平等と財産の効率的利用を両立させる趣旨である。

3. 分割対象財産——最大決平成28年12月19日の規範

最大決平成28年12月19日(預貯金債権事件)は、共同相続された預貯金債権の取扱いについて、従来の判例(最判平成16年4月20日)を変更し、次のように判示した。

すなわち『共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる』。これが現在の確立した判例規範であり、答案では原文に近い形で引用する必要がある。 学説の可分債権分割帰属説には深入りせず、最高裁の判例で淡々と処理することが合格者の答案戦略である。

分割対象財産の3類型

① 預貯金債権

預貯金債権は遺産分割の対象。共同相続開始と同時に法定相続分で当然分割されない(最大決平成28年12月19日)。判例変更前の旧説は不正解。

② 可分債権(預貯金以外)

金銭債権・損害賠償請求権など可分債権は原則として相続開始と同時に法定相続分で当然分割(最判昭和29年4月8日)。預貯金とは別扱い。

③ 不動産・動産・株式等

不動産・動産・有価証券・株式(議決権行使を伴うため不可分)は遺産分割の対象。代償分割・換価分割で処理されることが多い。

4. 遺産から生じた果実・賃料の取扱い

最判平成17年9月8日は、相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じた賃料債権の取扱いについて、次のように判示した。『遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、その間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である』。

すなわち賃料債権は遺産分割の対象外として、相続分に応じて当然分割される構造を採る。実務上は、相続人間の合意により遺産分割の中に組み込んで処理することも多いが、合意がなければ法定の処理に従う。

5. 重要判例——現代的論点

判例1

最判平成元年2月9日(遺産分割協議の解除事件)。共同相続人間で成立した遺産分割協議について、一部の相続人が協議で約束された債務(療養看護義務など)を履行しない場合に、他の相続人が民法541条により遺産分割協議を解除できるかが争われた。 最高裁は『遺産分割はその性質上、協議の成立とともに当然に終了し、その後は当該協議において債務を負担した相続人がその債務を履行しないからといって、他の相続人は541条によって右遺産分割協議を解除することはできない』と判示。 射程は、遺産分割の法的安定性を重視し、協議成立後の事情変動による巻き戻しを認めない判例法理にある。 本番の答案でこの規範を素通りすると採点者から減点される。

判例2

最判平成2年9月27日(遺産分割協議の合意解除事件)。最高裁は『共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられない』と判示。法定解除(最判平成元年2月9日)は不可だが、合意解除は可能という枠組みを示した。 両判例の射程をセットで理解する必要がある。

判例3

最判平成31年3月19日(遺産分割における特別受益事件)。生前贈与による特別受益(民法903条)の評価時点について、最高裁は遺産分割時の価額を基準とする原則を確認。906条の分割基準が裁判所の総合判断であることを示す判例として参照される。

Elencoで「民法907条」「遺産分割」「預貯金債権」を検索すると、本記事に加えて、特別受益・寄与分・遺留分・共同不法行為など、相続法・債権法の判例を一括で参照できます。判例の文言を正確に引用できるようになることが、本論点攻略の核心です。

6. 試験での出題傾向

司法試験論文式試験の民法では、遺産分割は平成27年・平成30年・令和元年・令和3年と数年に一度の頻度で出題される。予備試験でも頻出論点である。出題形式は、預貯金・賃料・株式など複数種類の遺産が含まれる事案で、分割対象財産の振り分けと分割方法を判断する形が定番。 採点者が見ているのは、最大決平成28年の規範を正確に書けるか、可分債権・賃料債権・株式の各取扱いを使い分けられるか、遺産分割協議の解除可否(最判平成元年2月9日と最判平成2年9月27日)の射程を区別できるか、の3点である。

7. 論証の型——そのまま答案に書ける形

規範定立

「民法907条1項は協議分割を原則とし、2項は協議不調の場合に家裁の審判分割を定める。分割対象財産について、判例(最大決平成28年12月19日)は『共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる』とする。他方、賃料債権は『遺産とは別個の財産』として相続分に応じて当然分割される(最判平成17年9月8日)」

当てはめのコツ

事実認定では、(i)遺産の各構成財産の種類(不動産・預貯金・株式・賃料・損害賠償請求権)、(ii)各財産の判例上の取扱い(分割対象 or 当然分割)、(iii)相続人間の協議の有無と内容、(iv)906条の分割基準(年齢・生活状況・利用目的)、(v)分割協議の解除事由の有無、を順に拾う。 採点者は、抽象的に『遺産分割する』と書く答案を減点する。 財産種別ごとの帰属を一つずつ整理して見せること。

7-2. 当てはめの手順——具体的には何を拾うか

規範を書けても当てはめで失点する答案が試験前日の総ざらいでも多発する。 具体的には、本問の遺産について次の6要素を機械的に拾う手順を踏むのが、合格者は実践している処理フローである。第一に、各遺産の種類を分類——不動産・動産・預貯金・現金・株式・債権・債務。 第二に、可分/不可分の判定——預貯金は最大決平成28年で分割対象、それ以外の可分債権は当然分割。 第三に、賃料・配当金・利息など遺産から生じた果実の帰属——遺産分割の対象外で相続分に応じて当然分割(最判平成17年9月8日)。 第四に、協議分割か審判分割かの選択——共同相続人全員の合意の有無。 第五に、906条の分割基準の当てはめ——具体的相続分・寄与分・特別受益の調整。 第六に、協議成立後の事情変動への対応——法定解除不可(最判平成元年2月9日)/合意解除可(最判平成2年9月27日)の振り分け。 この6要素を順に評価することで、判例の規範を踏まえた論述になる。 条文の文言『協議で分割』を抽象的に当てはめるだけの答案は、本番で採点者から大きく減点される。

8. よくある間違い・落とし穴

  • 落とし穴①:預貯金債権を当然分割と書く——最大決平成28年で判例変更。遺産分割対象が現在の正解
  • 落とし穴②:賃料債権を遺産分割対象に含める——最判平成17年9月8日で当然分割と確定
  • 落とし穴③:遺産分割協議の法定解除を肯定する——最判平成元年2月9日で否定。541条適用不可
  • 落とし穴④:合意解除も否定する——最判平成2年9月27日で肯定。法定解除と区別すること
  • 落とし穴⑤:[共同不法行為](/blog/minpo-719-kyodo-fuho-koi)による損害賠償請求権の帰属——可分債権として当然分割される構造の理解

9. 隣接論点との比較

混同しやすい論点との違い

遺産分割 vs 共有物分割

前者は遺産共有の終局的解消手続、後者は通常の物権共有の分割(民法256条)。手続・基準・救済が大きく異なる。

遺産確認訴訟 vs 遺産分割審判

前者は遺産分割の前提として遺産の範囲を確定する訴訟、後者は遺産分割そのものの実体的判断を行う家事審判。両者は別手続として並行する。

特別受益・寄与分 vs 遺留分

前者は相続人間の調整原理(903条)、後者は相続人以外の関係者への保障(1042条以下)。同じ相続法でも目的と要件が異なる。

10. まとめ

遺産分割は3ステップ。第一に、遺産の各構成財産を分類し、最大決平成28年(預貯金)と最判平成17年9月8日(賃料)の判例で対象財産を確定する。第二に、協議分割(907条1項)か審判分割(同条2項)かの手続を選択する。第三に、906条の分割基準で具体的相続分を算定する。 協議成立後の解除可否は最判平成元年2月9日(法定解除不可)と最判平成2年9月27日(合意解除可)で区別する。 判例の文言を正確に引用し、具体的事実を丁寧に当てはめれば合格答案に届く。 学説対立に深入りせず、判例の立場で淡々と処理することが、合格者は実践している答案戦略である。

STEP 1: Elencoで「民法907条」「遺産分割」「預貯金債権」を検索し、最大決平成28年12月19日と最判平成17年9月8日の射程を体系的に把握する。

  1. 2

    演習機能で平成27年・平成30年の司法試験論文を解き、本記事の論証型を実戦で使う。

  2. 3

    特別受益・寄与分・遺留分・遺産確認訴訟など相続法体系の応用問題で、906条の分割基準の当てはめを習得する。条文・判例・演習を往復することで、本論点は安定得点源になる。

この記事で言及した条文

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