憲法29条は1項で財産権を保障し、2項で公共の福祉に適合する内容を法律で定めるものとし、3項で公用収用に対する正当な補償を要求する三層構造を採る。答案では、規制の合憲性審査と、3項補償の要否判断という2つの軸を意識して書き分けるのが基本となる。
①29条1項の保障範囲、②2項規制の合憲性審査、③3項補償の要否(特別の犠牲)、④論証の組み立て方、の順で扱う。経済的自由の横断整理は [憲法22条 職業選択の自由](/blog/kenpo-22-shokugyo-sentaku) を併読してほしい。
29条1項の保障範囲
1項 財産権は、これを侵してはならない。 2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。 3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
29条1項は、個々人の具体的な財産権を保障する側面と、私有財産制度そのものを保障する側面を併せ持つと整理されている(制度的保障)。最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁(森林法共有林事件)は、財産権の規律が個別の財産権ないし財産権一般に対していかなる規制を加えるかについて、立法目的の正当性と規制手段との関連性を慎重に審査する枠組みを示した判例として引かれる。
2項規制の合憲性審査
2項は『公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める』としており、財産権の内容形成・規制が法律事項であることを示している。合憲性審査では、立法目的の正当性と、その目的との関係での規制手段の必要性・合理性を検討するのが一般的な整理である。
古典的には、最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁(薬事法距離制限事件)が示した目的二分論(消極目的規制は厳格な合理性、積極目的規制は明白の原則)を借りた形で、29条2項の議論にも目的二分論を当てはめる説明が行われてきた。もっとも、森林法共有林事件は規制目的と規制手段との関係を、共有物分割請求の制限という具体的な規律内容に即して、立法府の合理的裁量の範囲を超えていないかを検討する形で違憲の結論に至った。経済的自由の規制では、二分論の名のもとに審査を機械的に分けるよりも、目的と手段の関係を具体的に検討する整理が、答案上は安定する。
3項補償の要否(特別の犠牲)
3項『正当な補償』の要否については、当該規制が財産権に内在する一般的な制約にとどまるか、それとも特定の財産権主体に特別の犠牲を強いるものかを判断する『特別の犠牲』の枠組みが用いられる。
最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁(奈良県ため池条例事件)は、災害防止を目的としたため池堤とうの使用制限について、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者がこれを使用しえなくなることは、財産権の行使を全くなしえないようにする内容のものであっても、災害を未然に防止するという社会生活上のやむを得ない必要から定められた制約であり、財産権を有する者が当然受忍しなければならない責務であるから、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としない旨を示した。
最大判昭和43年11月27日刑集22巻12号1402頁(河川附近地制限令事件)は、河川管理上の必要から付近の土地利用に制限を加える規律について、当該制限が一般的に課されるものであっても、特定人に対して特別の犠牲を強いる態様の制約であれば、29条3項により損失補償を請求する余地がある旨を示した。
正当な補償の意義については、最大判昭和28年12月23日民集7巻13号1523頁(戦後農地改革事件)が、被収用財産の客観的価値を全部補償することまでは要求されず、その当時の社会経済状態において合理的に算出された相当な額をいう旨を示した(相当補償説)。もっとも、現在の土地収用法の運用では、近傍類地の取引価格を基礎とする完全補償に近い算定が一般化しており、答案では立法の運用と判例の判示を区別して論じることが求められる場面もある。
論証の組み立て方
29条 論証の型
権利の特定
本件で問題となるのは、Xの〇〇という財産権が、〇〇法(条例)による規制によって、憲法29条1項・2項に違反する形で侵害されているか、また3項に基づく補償が必要かである。
保障範囲の確認
29条1項は個別財産権のみならず、私有財産制度そのものの保障を含むと整理されている。本件規制が財産権の本質的内容を侵害するものかも併せて検討する。
規制の合憲性審査
立法目的の正当性と、規制手段の必要性・合理性を、当該規制の具体的内容に即して審査する。最大判昭和62年4月22日(森林法共有林事件)の枠組みを参照し、目的と手段の関係を具体的に検討する。
3項補償の検討
規制が財産権に内在する一般的な制約にとどまるか、特定人に特別の犠牲を強いるものかを、最大判昭和38年6月26日(ため池条例事件)・最大判昭和43年11月27日(河川附近地制限令事件)の整理に従って判断する。
当てはめ
本件では、〇〇という立法目的・〇〇という規制手段の関係から、合理性が認められる(あるいは認められない)。3項補償については、〇〇という事情から、特別の犠牲に当たる(あるいは当たらない)。
結論
以上から、本件規制は憲法29条2項に違反する(あるいは違反しない)。3項補償が必要である場合は、相当な補償の支給を伴うことで合憲的な運用が可能となる。
よくある誤解
経済的自由の横断整理は [憲法22条 職業選択の自由](/blog/kenpo-22-shokugyo-sentaku) を、平等原則との関係は [憲法14条 法の下の平等](/blog/kenpo-14-byodo-gensoku) を併読してほしい。国が私的団体・宗教団体へ財政支出する場面では [憲法89条 公金支出禁止](/blog/kenpo-89-koukin-shishutsu) の検討も不可欠。
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