自分の作品が無断で使われている——そう気づいたとき、法律は「止めさせる」「賠償させる」「刑事責任を問う」という複数の手段を用意している。差止請求(112条)・損害額推定の3ルート(114条)・刑事告訴(親告罪)を、それぞれの要件と立証難度から整理する。
1. 侵害を発見したら——4つの請求
著作権侵害を発見した権利者がとりうる法的手段は大きく4つある。①差止請求(112条)で侵害行為の停止・予防を求め、②損害賠償請求(114条の損害額推定を活用)で金銭的な填補を求め、③名誉回復措置請求(115条)で訂正広告等を求め、④刑事告訴(原則として親告罪・123条)で刑事責任を追及する。 民事的救済の中心は差止請求と損害賠償であり、両者は併せて行使できる。
2. 差止請求(112条)——過失を要しない
① 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。 ② 前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物等の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
差止請求は、故意・過失を要件としない点に特徴がある。侵害者に過失がなくても、侵害の事実または侵害のおそれさえあれば差止めが認められる。この点で、故意・過失を要件とする損害賠償請求(民法709条)と大きく異なる。 また112条2項により、侵害行為を組成した物や侵害により作成された物の廃棄など、差止めの実効性を確保するための付随的措置も請求できる。
3. 損害額推定の3ルート(114条)
損害賠償請求では、権利者が損害額を立証することが困難であることを踏まえ、114条が3つの推定・算定規定を置く。1項は侵害品の譲渡数量に基づく推定、2項は侵害者が得た利益額の推定、3項は使用料相当額である。立証難度と適用場面が異なるため、実務では最も立証が容易な3項を土台にしつつ、可能であれば1項・2項を組み合わせて主張する。
114条の3ルート——立証難度と適用場面
第1項——譲渡数量推定(立証難度:高)
「侵害品の譲渡数量×権利者が侵害品1個当たり得べかりし利益額」を損害と推定する。権利者自身が販売していた場合に強力な規定で、侵害品の販売数量の立証と権利者の販売能力(市場占拠可能性)が必要。侵害者の販売数量が権利者の生産・販売能力を超える部分は推定が制限される。
第2項——侵害者利益額推定(立証難度:中)
「侵害者が侵害行為によって得た利益の額」を権利者の損害額と推定する。侵害者の帳簿・売上データの開示が前提になるため、文書提出命令(民訴法220条)と組み合わせることが多い。侵害者が利益を得ていない場合(採算度外視の侵害)は推定が及ばず、3項による。
第3項——使用料相当額(立証難度:低/常時請求可)
「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を最低限の損害として認める。1項・2項の推定が及ばない場合でも「少なくともこの額は賠償しろ」という最低保証として機能する。立証が最も容易で、実務では3項を主張したうえで可能なら1項・2項を上乗せする。
4. 刑事告訴——原則は親告罪(123条)
著作権侵害罪は原則として親告罪であり、権利者の告訴がなければ公訴を提起できない(123条1項)。
ただし、2016年のTPP整備法により、有償著作物を原作のまま複製・公衆送信するなど一定の要件を満たす悪質な事案については非親告罪化された。刑事罰は、著作権侵害について10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(またはその併科)が定められている(119条1項)。
5. ネット上の侵害——発信者情報開示とリーチサイト規制
インターネット上の侵害では、匿名の投稿者を特定するために、プロバイダ責任制限法(現在は情報流通プラットフォーム対処法)に基づく発信者情報開示請求が用いられる。2021年改正で開示手続が非訟事件化され、従来の二段階の裁判手続が一本化されて迅速化された。 また令和2年著作権法改正では、侵害コンテンツへのリンクを集約するリーチサイト・リーチアプリの運営行為やリンク提供行為が規制対象に加えられた。
よくある質問
Q. 著作権侵害を見つけたら何ができますか?
A.主に4つの手段があります。
①差止請求(112条)で侵害行為の停止・予防を求め、②損害賠償請求(114条の損害額推定を活用)で金銭賠償を求め、③名誉回復措置請求(115条)で訂正広告等を求め、④刑事告訴(原則親告罪・123条)で刑事責任を追及します。 民事の中心は差止請求と損害賠償で、両者は併せて行使できます。
Q. 差止請求に故意・過失は必要ですか?
A.必要ありません。
差止請求(112条)は、侵害の事実または侵害のおそれさえあれば認められ、侵害者に故意・過失がなくても差止めが可能です。この点が、故意・過失を要件とする損害賠償請求(民法709条)と大きく異なります。あわせて侵害品の廃棄など付随的措置も請求できます(112条2項)。
Q. 損害額はどのように立証しますか?
A.114条が3つのルートを用意しています。
1項は侵害品の譲渡数量に基づく推定、2項は侵害者が得た利益額の推定、3項は使用料相当額です。1項・2項は立証のハードルが高い一方、3項の使用料相当額は最も立証が容易で、常に請求できる最低保証として機能します。 実務では3項を土台に、可能なら1項・2項を上乗せします。
Q. 114条3項の使用料相当額とは何ですか?
A.著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額、すなわち本来ライセンス料として得られたはずの金額です。
1項・2項の推定が及ばない場合でも「少なくともこの額は損害である」として認められる最低限の損害額であり、権利者にとって最も立証が容易なルートです。
Q. 著作権侵害は必ず刑事告訴が必要ですか?
A.著作権侵害罪は原則として親告罪であり、権利者の告訴がなければ起訴できません(123条1項)。
ただし2016年のTPP整備法により、有償著作物を原作のまま複製・公衆送信するなど一定の悪質な類型については非親告罪化され、告訴がなくても起訴できるようになりました。
Q. 匿名の相手による侵害はどう対応しますか?
A.プロバイダ責任制限法(現・情報流通プラットフォーム対処法)に基づく発信者情報開示請求により、匿名の投稿者を特定できます。
2021年改正で手続が非訟事件化され、従来より迅速に開示を受けられるようになりました。特定後に差止請求や損害賠償請求を行うのが一般的な流れです。
Elencoの条文検索で「著作権法112条」「著作権法114条」「著作権侵害」を検索すると、本記事に加えて複製権(21条)・公衆送信権(23条)・引用(32条)との関連論点を横断して確認できる。