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Elenco編集部監修・編集
公開 2026.05.07最終更新 2026.05.18

会社法362条 取締役会の権限——重要な業務執行と内部統制の整理

この記事のポイント

会社法362条が定める取締役会の権限のうち、重要な業務執行への当てはめ、内部統制システム構築義務、代表取締役への委任の限界を、判例とともに整理する。

会社法362条は、取締役会の権限を定めるとともに、4項各号で重要な業務執行を取締役会の専決事項として列挙する。実務でも論文でも、本件の行為が「重要な業務執行」に当たるかどうかをどのように判断するかが中心的な争点となる。本稿では、362条の構造、重要な財産の処分、内部統制システム構築義務、代表取締役への委任の限界を整理する。

①取締役会の権限と4項各号、②重要な財産の処分(最判平成6年1月20日)、③内部統制システム構築義務(最判平成21年7月9日)、④監視義務(最判平成22年7月15日)、⑤論証の組み立て方、の順で扱う。関連条文として 会社法423条 役員の責任 と合わせて読むと、取締役の責任構造を一通り把握できる。

362条の構造と4項各号

条文
会社法362条(取締役会の権限等)

1項 取締役会は、すべての取締役で組織する。 2項 取締役会は、次に掲げる職務を行う。 一 取締役会設置会社の業務執行の決定 二 取締役の職務の執行の監督 三 代表取締役の選定及び解職 4項 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。 一 重要な財産の処分及び譲受け 二 多額の借財 三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項 六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備 七 取締役の責任の一部免除 5項 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

4項は、業務執行のうち重要なものについて、取締役への委任を禁じ、取締役会の専決事項とする。各号に明示された事項のほか、柱書の「その他の重要な業務執行」も含まれる。5項は、大会社における内部統制システムの整備の決定を取締役会の義務とする。

重要な財産の処分(最判平成6年1月20日)

最判平成6年1月20日民集48巻1号1頁は、ある財産の処分が「重要な財産の処分」(362条4項1号)に該当するかどうかについて、当該財産の価額、その総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様、会社における従来の取扱いなどの諸事情を総合的に考慮して判断するべきである旨を判示した。

実務上は、財産価額の絶対値だけでなく、総資産に対する比率や、本業との関係などが手掛かりにされる。決まった数値基準があるわけではなく、事案ごとの総合判断という枠組みが採られる。

内部統制システム構築義務(最判平成21年7月9日)

最判平成21年7月9日民集63巻6号1227頁(日本システム技術事件)は、子会社の従業員による不正売上計上が問題となった事案で、取締役は会社の業種・規模・特性などに応じたリスク管理体制(内部統制システム)を整備すべき善管注意義務および忠実義務を負う旨を判示した。

362条4項6号・5項は、大会社における内部統制システム整備に関する取締役会の決定義務を明文化するものであり、上記判例の枠組みと結びつけて整理することができる。

監視義務(最判平成22年7月15日)

最判平成22年7月15日判時2091号90頁(蛇の目ミシン事件)は、代表取締役が暴力団関係者の不当要求に応じて多額の支出を行った事案で、取締役の善管注意義務・忠実義務と、代表取締役の業務執行に対する監視義務に違反したとして、会社に対する損害賠償責任を肯定した。

362条・363条が定める取締役会と代表取締役の関係を前提に、各取締役には他の取締役の職務執行に対する監視義務が課されている。これに違反すれば、423条の任務懈怠責任に直結する。

会社法362条の判定フロー
会社法362条 取締役会の権限本件行為は業務執行に当たるか4項各号または「その他の重要な業務執行」に当たるか取締役会決議を経ているか、代表取締役への委任は許されるか内部統制システム構築義務(362条4項6号・5項)の問題はないか

論証の組み立て方

会社法362条の論証

問題の所在

本件で問題となるのは、代表取締役Aの〇〇行為が、会社法362条4項にいう取締役会の専決事項にあたり、取締役会決議を欠く本件処分の効力が否定されるかである。

条文の特定

362条4項各号に明示の該当性を検討し、明示の号に該当しない場合は柱書の「その他の重要な業務執行」にあたるかを論ずる。

判例規範

最判平成6年1月20日は、重要な財産の処分の該当性について、財産の価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、従来の取扱いを総合考慮して判断する旨を示している。

規範の趣旨

重要な業務執行については、取締役会で慎重に検討させ、会社の利益と監督機能を確保する趣旨である。

当てはめ

本件では、処分対象の財産は〇億円で総資産の〇%を占め、〇〇の用途で取得されたものであり、過去には類似の処分について取締役会決議を経ていた(あるいは経ていなかった)。これらを総合すると、重要な財産の処分にあたる(あるいはあたらない)。

結論

以上から、取締役会決議を欠く本件処分には4項違反の瑕疵があり、効力が否定される(あるいは肯定される)。取締役の責任については、内部統制システムや監視義務違反として423条の損害賠償責任の検討に進む。

よくある誤解

よくある質問

Q. 「重要な財産の処分」はどう判断するか

A.最判平成6年1月20日は、財産の価額、総資産に占める割合、保有目的、処分行為の態様、会社における従来の取扱いなどを総合考慮するとした。

決まった数値基準はないため、複数の事情を組み合わせて評価することになる。

Q. 内部統制システム構築義務はどの程度まで及ぶか

A.362条4項6号・5項は、大会社における内部統制システム整備に関する決定を取締役会の義務とする。

整備すべき体制の具体的内容は、会社の業種・規模・特性に応じて取締役会が決定する。最判平成21年7月9日は、内部統制の構築・運用における取締役の善管注意義務・忠実義務を確認した。

Q. 代表取締役への委任の限界はどこにあるか

A.362条4項は「重要な業務執行の決定」について、代表取締役への委任を禁じている。

4項1〜7号の各事項は当然に専決事項となり、それ以外でも柱書の「その他の重要な業務執行」に該当する事項は委任できない。

Q. 取締役の監視義務と362条はどう結びつくか

A.362条2項2号は取締役会の職務として代表取締役の監督を定める。

最判平成22年7月15日(蛇の目ミシン事件)は、取締役の善管注意義務・忠実義務、および代表取締役の業務執行に対する監視義務を確認した。監視義務違反は423条の任務懈怠責任に直結する。

取締役の責任の枠組みについては 会社法423条 役員の責任 を参照してほしい。

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