刑法235条の窃盗罪は、条文上は「他人の財物を窃取した」と短く書かれているが、判例の蓄積により、他人の財物・占有・窃取・不法領得の意思の4要素として整理されている。本稿では、占有の認定、不法領得の意思、親族相盗例(244条)との関係を中心に整理する。
①235条の構成要件、②占有の認定(置き忘れと死者の占有)、③不法領得の意思(使用窃盗・毀棄罪との区別)、④親族相盗例、⑤論証の組み立て方、の順で扱う。関連条文として [刑法130条 住居侵入](/blog/keiho-130-jukyoshinnyu) や [刑法236条 強盗罪](/blog/criminal-law-236-robbery) と合わせて読むと、財産犯の体系を一通り把握できる。
235条の構成要件
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
条文上の要件は「他人の財物」と「窃取」であるが、判例は超法規的構成要件として「不法領得の意思」を要求する。さらに「他人の」という要件は所有権の所在にとどまらず、242条により自己の財物であっても他人が占有するときは「他人の財物」とみなされる場合がある。
窃盗罪の4要素
他人の財物
他人の所有物が原則だが、自己の所有物であっても、他人が占有する場合や公務所の命令により他人が看守する場合は、242条によって「他人の財物」とみなされる。
占有
事実上の支配を意味する。物理的に手元にある場合だけでなく、社会通念上、その人の支配下にあると評価される範囲を含む。場所的・時間的近接性が判断要素となる。
窃取
占有者の意思に反して財物の占有を自己または第三者に移転すること。詐欺罪・恐喝罪のように、たとえ瑕疵あるものであれ被害者の処分行為を介在させる類型とは異なる。
不法領得の意思
判例(最判昭和26年7月13日)は、権利者を排除して他人の物を自己の所有物とし、その経済的用法に従って利用処分する意思としている。前段(権利者排除意思)が使用窃盗との区別を、後段(利用処分意思)が毀棄罪との区別を画する。
占有の認定——置き忘れと死者の占有
最決昭和55年10月30日刑集34巻5号357頁は、駅構内の遺失物を取り上げた事案で、被害者が置き忘れた場所から相当近距離(約27メートル)にあり、置き忘れに気付いて引き返せば容易に取り戻せる状況にあったときは、なお被害者の占有が認められるとして、窃盗罪の成立を認めた。場所的・時間的近接性に基づき占有の有無を判断する考え方は、答案でも繰り返し用いられる。
最決平成3年6月3日刑集45巻6号109頁は、被告人が被害者を殺害した直後にその財物を奪った事案について、殺害行為と財物奪取とが時間的・場所的に接着した一連の行為と評価できるときには、被害者の生前の占有が刑法上保護され、235条が成立する旨を判示した。死者には占有がないとして直ちに254条(占有離脱物横領罪)とするのではなく、生前の占有を保護する考え方である。
不法領得の意思——使用窃盗・毀棄罪との区別
最判昭和26年7月13日刑集5巻8号1437頁は、不法領得の意思を、権利者を排除して他人の物を自己の所有物とし、その経済的用法に従って利用処分する意思と定義した。判例は、(i) 権利者排除意思の側面で、ごく短時間の使用後に元に戻すような事案を使用窃盗として処罰の外に置き、(ii) 利用処分意思の側面で、専ら毀棄・隠匿目的による持去りを毀棄罪(261条)の領域に振り分ける、という機能を不法領得の意思に与えている。
もっとも、使用と評価できる範囲は事案によって幅があり、自動車を相当長時間にわたり乗り回した事案などでは、後に返還する意思があったとしても権利者排除意思が肯定される方向で評価されることがある。
親族相盗例(244条)
244条1項は、配偶者・直系血族・同居親族の間の窃盗について、刑を免除する。2項は、これら親族以外の者が共犯であるときは、その者については免除の効果が及ばないと定める。法律上の親族関係を前提とする規律であり、内縁関係は原則として含まれない。
論証の組み立て方
刑法235条の論証
問題の所在
本件で問題となるのは、Xが本件財物を持ち去った行為が刑法235条(窃盗罪)を構成するかである。
要件の特定
235条は他人の財物、占有、窃取、不法領得の意思を要する。本件では特に〇〇要件の充足が問題となる。
判例規範
占有については、最決昭和55年10月30日が、場所的・時間的近接性に基づき判断する立場を示す。死者からの財物奪取については、最決平成3年6月3日が、生前の占有が刑法上保護される旨を示す。不法領得の意思については、最判昭和26年7月13日が、権利者排除意思と利用処分意思の双方を要する旨を示す。
規範の趣旨
占有は事実上の支配として社会通念のもとで広く捉える一方、不法領得の意思を要求することで、不可罰な使用窃盗や毀棄罪の領域との振り分けを行うのが、これらの判例の機能である。
当てはめ
本件では、〇〇という事実関係から占有が認められ(あるいは認められず)、Xには権利者排除意思と利用処分意思が認められる(あるいは認められない)。
結論
以上から、Xの行為は235条を構成する(あるいは254条占有離脱物横領罪や261条器物損壊罪の領域にとどまる)。親族関係が存する場合は244条の適用も検討する。
よくある誤解
暴行・脅迫を用いた取得行為は強盗罪(236条)、財物の交付について処分行為が介在する場合は詐欺罪(246条)や恐喝罪(249条)といった近接犯罪との比較も重要となる。
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