刑法38条は故意責任の原則を定め、過失犯処罰の例外を明文化する。錯誤論は、行為者が認識した事実と発生した事実が一致しない場合に、構成要件的故意を認めるかをめぐる議論である。本稿で、故意・過失の枠組みと錯誤論を整理する。
扱うのは、①38条の構造、②構成要件的故意の内容、③具体的事実の錯誤、④抽象的事実の錯誤、⑤違法性の錯誤、⑥論証の組み立て、の順である。
条文と故意責任の原則
1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 2項 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。 3項 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
1項は故意責任の原則を、2項は重い罪に対応する事実を知らなかった場合の取扱いを、3項は違法性の錯誤と故意の関係を定める。錯誤論はこれらの規定の解釈として展開される。
具体的事実の錯誤
具体的事実の錯誤は、同一の構成要件内で、行為者が認識した事実と発生した事実が一致しない場合の錯誤である。Aを狙って射撃したところAではなくBに命中した(客体の錯誤)、Aを狙ったがAに命中せずに横にいたBに命中した(方法の錯誤)といった場面が代表例である。
判例・通説の整理は法定的符合説に立ち、認識した事実と発生した事実が同じ構成要件に属する範囲内で符合していれば、発生した事実について構成要件的故意を認める。具体的符合説は、認識した事実と発生した事実が具体的に符合することを要求する立場で、結論に差が出る場面がある。
抽象的事実の錯誤
抽象的事実の錯誤は、認識した事実と発生した事実が異なる構成要件にまたがる場合の錯誤である。たとえば、軽い罪に当たる事実を認識して行為したところ重い罪に当たる事実が発生した場合などが該当する。
通説的整理では、認識した事実と発生した事実が構成要件的に重なる範囲(構成要件が重なる部分の罪)で故意責任を認める、というアプローチが取られてきた。38条2項は、重い罪に当たる事実を知らなかった場合に重い罪で処断できない旨を定めており、抽象的事実の錯誤の処理の出発点となる。
違法性の錯誤
38条3項は、法律を知らなかったとしても罪を犯す意思がなかったことにはならない旨を定め、違法性の錯誤について情状による減軽の余地のみを認める。学説には、違法性の意識の可能性が欠ける場合に故意責任を否定する立場(厳格故意説・制限故意説の議論)もあり、論文ではどの立場を取るかを明示してから論じる。
論証の組み立て方
錯誤論の論証
問題の所在
本件では、行為者の認識した事実と発生した事実が一致しないところ、発生した事実について構成要件的故意が認められるかが問題となる。
錯誤の類型
本件の錯誤が、同一構成要件内の具体的事実の錯誤か、異なる構成要件にまたがる抽象的事実の錯誤かを最初に切り分ける。
規範
具体的事実の錯誤については、法定的符合説(判例)のもとで、認識と発生が同一構成要件の範囲内で符合する限り、発生した事実について故意を認める。抽象的事実の錯誤については、構成要件の重なる範囲で故意責任を認め、38条2項の取扱いを踏まえる。
規範の趣旨
故意責任の原則のもとで、認識と発生のずれを構成要件の枠組みで処理し、責任主義を維持しつつ犯罪の成立範囲を画する趣旨である。
当てはめ
本件では、〇〇という錯誤の構造のもとで、認識と発生がどの範囲で符合するかを評価する。
結論
以上から、行為者には〇〇罪の故意が認められる(あるいは認められない)。
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