公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。 2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
適法性の判断——3要素(最決昭和41年4月14日)
① 抽象的職務権限
当該公務員の所属官庁・部署が、当該行為類型を行う権限を有していること。例:警察官の交通取締まりは抽象的職務権限あり。市役所職員が交通取締まりを行う場合はなし。
② 具体的職務権限
当該公務員が当該具体的事案について権限を有すること。管轄区域外での職務執行は具体的職務権限を欠きうる。事案の具体的な事実関係に即して判断する。
③ 適法性の判断方法(最重要)
最決昭和41年は「当該公務員の主観や個人的判断によって決すべきものではなく、その所属官庁、職務権限、その手続上の要件等に照らし、具体的事案の事実関係のもとで客観的・合理的に決すべきもの」と定式化。この文言を答案に埋め込めるかが採点の分水嶺。
論証6行テンプレ(刑法95条1項)
① 条文・保護法益
刑法95条1項は、公務員が職務を執行するに当たり暴行又は脅迫を加えた者を処罰する。本罪の保護法益は「公務の円滑な遂行」である(国家的法益)。
② 適法性要件(3要素)
保護法益が公務である以上、保護対象となる職務は適法でなければならない。適法性は構成要件要素として、(i)抽象的職務権限、(ii)具体的職務権限、(iii)手続上の要件の3要素で判断する。
③ 適法性の判断方法(判旨直接引用)
判例(最決昭和41年4月14日)は「適法性については、当該公務員の主観や個人的判断によって決すべきものではなく、その所属官庁、職務権限、その手続上の要件等に照らし、具体的事案の事実関係のもとで客観的、合理的に決すべきもの」と定式化する。
④ 暴行・脅迫の意義
本罪の「暴行」は広義の暴行、すなわち公務員に向けられた有形力の行使で足り、必ずしも公務員の身体に直接向けられている必要はない(最判昭和37年1月23日)。脅迫は害悪の告知。
⑤ 故意・錯誤
客観的に適法な職務行為でも、行為者が違法と誤信した場合は事実の錯誤として故意阻却を検討する(最決昭和53年6月29日)。38条1項の適用可否を論じる。
⑥ あてはめ・結論・罪数
【職務性 → 適法性3要素 → 暴行・脅迫 → 故意】の順に検討し結論を示す。最後に傷害罪等との観念的競合(54条1項前段)を処理する。各段階に対応する事実を1つずつ拾い、論点を素通りしない。
司法試験・予備試験で頻出の3パターン
パターン①:職務行為が違法と疑われる事案(最頻出)
違法逮捕に対する反撃のように、職務行為そのものの違法が争点となる事案。論証テンプレの②③(適法性3要素・判旨)を厚く書く。違法性が重大かつ明白か否かを必ず判定する。「客観的・合理的判断」の文言を地の文に埋め込む。
パターン②:暴行が公務員以外の対象に向かった事案
公務員の使用する物への暴行・公務員の眼前で書類を破るなどの事案。論証テンプレの④(暴行の広義性)を厚く書く。最判昭和37年を引用し、間接的有形力で足りる旨を示す。「狭義の暴行に限られない」という対比表現が有効。
パターン③:誤想による抵抗事案
職務行為が客観的には適法だが、行為者が違法と誤信して抵抗した事案。論証テンプレの⑤(錯誤論)を厚く書く。最決昭和53年を踏まえ、事実の錯誤として故意阻却の可否を検討する。38条1項の解釈と接続できるかが採点上のポイント。
採点者が見る失点・加点チェックリスト
失点①:保護法益を素通りする
保護法益が公務の円滑な遂行であることを示さずに進めると、適法性要件の根拠が崩れ答案全体の説得力が落ちる。冒頭で必ず一行で書く。
失点②:判旨を要約しすぎる
「適法性については客観的・合理的に判断する」のように要約してしまうと「判例の文言を押さえていない」と評価される。「所属官庁、職務権限、手続上の要件」という列挙部分を地の文に埋め込む。
失点③:暴行を狭義で書く
暴行罪(208条)の暴行と同視して「身体への有形力」とだけ書くと、最判昭和37年の広義の暴行を理解していないと評価される。机・書類への有形力も含む点に必ず触れる。
加点①:判旨の直接引用
「客観的、合理的に決すべきもの」を直接引用すると採点者は判例を正確に押さえていると判断し加点する。判旨は要約せず、キーフレーズを地の文に埋め込む。
加点②:錯誤論への接続
違法と誤信した事案で錯誤論(38条1項)への接続を示せれば、合格者が書く論点間の架橋を示せる。合格者は必ずここまで書く。