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Elenco編集部監修・編集
公開 2026.05.07最終更新 2026.07.09

労働基準法32条 法定労働時間——36協定の要件と2019年改正の上限規制を整理する

この記事のポイント

労働基準法32条が定める法定労働時間(1日8時間・週40時間)、36協定による時間外労働の例外、2019年改正による上限規制(時間外労働の上限)、判例(日立製作所武蔵工場事件)を踏まえて、社会人・受験生向けに解説します。

「残業は月45時間まで」と覚えていたのに、実際の36協定には「月80時間」と書かれていて混乱した——こうした食い違いは、原則の上限と特別条項の上限を分けて理解していないことから生じる。労働基準法32条の法定労働時間・36協定・2019年改正の上限規制を、答案でも実務でも使える形で整理する。

1. 法定労働時間の原則——1日8時間・週40時間

条文
労働基準法第32条労働時間

① 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。 ② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法32条は、使用者が労働者を労働させることのできる時間の上限を定める。1項が週40時間、2項が1日8時間を法定労働時間として設定し、これを超える労働は原則として違法である(32条違反には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金・119条1号)。 この「1日8時間・週40時間」は強行的な最低基準であり、労使の合意によって労働者に有利に引き下げることはできても、これを超えて労働させる合意を有効に結ぶことは原則としてできない。

2. 時間外労働の例外——36協定の免罰的効果

法定労働時間を超えて労働させるには、労働基準法36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)の締結と、労働基準監督署への届出が必要である。ここで重要なのは、36協定は「それ自体が労働者に時間外労働を義務づけるもの」ではないという点である。36協定は、本来違法な時間外労働について使用者の刑事責任を免れさせる免罰的効果を持つにとどまり、実際に時間外労働を命じるための私法上の根拠は、就業規則または労働契約に別途求める必要がある。

時間外労働の適法性——二段構えで検討する
時間外労働の適法性——二段構えで検討原則:1日8時間・週40時間(32条)超える労働は原則違法① 36協定+届出刑事責任を免れる(免罰的効果)命令の根拠ではない② 就業規則の合理的規定業務命令の私法上の根拠(日立製作所武蔵工場事件)合理性が必要①と②の両方がそろって適法な時間外労働命令

3. 36協定の要件

36協定を有効に機能させる4つの要件

① 書面協定の締結——労働者代表との締結

過半数組合または過半数代表者と使用者の間で書面協定(36協定)を締結する。協定では対象業務・労働者数・延長できる時間(1日・1か月・1年)等を定める。

② 労働基準監督署への届出

協定を労働基準監督署長に届け出ることで免罰的効果が発生する(36条1項)。届出なしでは時間外労働命令の法的根拠がない。

③ 絶対的上限の遵守——2019年改正の核心

原則:月45時間・年360時間。特別条項適用でも①月100時間未満(休日労働含む)、②年720時間以下、③複数月平均80時間以内、④月45時間超えは年6か月まで。この4点を全て満たす必要がある。違反は刑事罰の対象(改正前は罰則なし)。

④ 就業規則への規定と合理性

最判平成3年11月28日(日立製作所武蔵工場事件)は「就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、労働者は労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負う」と判示した。協定の有効性に加え、就業規則の合理性が業務命令の根拠として必要。

4. 2019年改正の上限規制——罰則付きの絶対的上限

2019年に順次施行された働き方改革関連法は、それまで厚生労働大臣の告示にとどまっていた時間外労働の上限を、法律上の規制へと格上げした。原則は月45時間・年360時間である。臨時的な特別の事情がある場合の特別条項を適用しても、①時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること、②同じく複数月(2〜6か月)の平均が80時間以内であること、③時間外労働が年720時間以下であること、④月45時間を超えられるのは年6か月までであること、という4つの絶対的上限をすべて満たさなければならない。 これらに違反すると罰則の対象となる点が、罰則のなかった改正前との決定的な違いである。

2019年改正の上限規制——原則と特別条項
時間外労働の上限規制(2019年改正)原則:月45時間・年360時間通常はこの範囲内でなければならない特別条項でも次の4点をすべて満たす必要がある① 月100時間未満休日労働を含む② 複数月平均80時間以内2〜6か月平均③ 年720時間以下時間外労働の年間上限④ 月45時間超は年6か月まで違反は刑事罰の対象

5. 就業規則の合理性——日立製作所武蔵工場事件

時間外労働命令が私法上も有効であるためには、36協定の存在に加えて、就業規則等に時間外労働を命じうる旨の定めがあり、その内容が合理的であることが必要である。最判平成3年11月28日(日立製作所武蔵工場事件)は、就業規則の規定内容が合理的なものである限り、労働者は労働契約の定める労働時間を超えて労働する義務を負うと判示した。

したがって、①36協定による免罰的効果と、②就業規則の合理的規定による業務命令の私法上の根拠という二段構えで、時間外労働の適法性を検討することになる。

6. 答案・実務での整理手順

労働時間規制が問題となる場面では、①当該労働が法定労働時間(32条)を超えるかを確認し、②超える場合は36協定の締結・届出の有無を検討し、③2019年改正の上限規制(特に特別条項の4つの絶対的上限)への適合を当てはめ、④就業規則の合理性(日立製作所武蔵工場事件)から業務命令の私法上の根拠を確認する、という順序で整理すると論点の漏れを防げる。 残業代請求の事案では、これに加えて割増賃金(37条)の計算基礎と割増率の検討が必要になる。

よくある質問

Q. 法定労働時間とは何時間ですか?

A.1日8時間・週40時間です(労働基準法32条)。

これを超える労働は原則として違法であり、32条違反には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています。労使の合意でこれを引き上げることは原則としてできない強行的な最低基準です。

Q. 残業(時間外労働)をさせるには何が必要ですか?

A.労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。

ただし36協定は使用者の刑事責任を免れさせる免罰的効果を持つにとどまり、実際に残業を命じる私法上の根拠は、就業規則または労働契約に別途必要になります。

Q. 36協定があれば無制限に残業させられますか?

A.できません。2019年改正で時間外労働の上限が法律上規制されました。原則は月45時間・年360時間であり、特別条項を適用しても、月100時間

Q. 特別条項の絶対的上限を具体的に教えてください。

A.①時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、②その合計の複数月(2〜6か月)平均が80時間以内、③時間外労働が年720時間以下、④月45

Q. 36協定を届け出れば、労働者は残業命令に従う義務がありますか?

A.36協定だけでは足りません。

36協定は免罰的効果を与えるにすぎず、残業命令に従う私法上の義務は、就業規則に時間外労働を命じうる合理的な規定があって初めて生じます(日立製作所武蔵工場事件・最判平成3年11月28日)。協定の存在と就業規則の合理性の二段構えで判断します。

Q. 上限規制に違反するとどうなりますか?

A.6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。

2019年改正以前は、上限が大臣告示にとどまり違反しても罰則がありませんでしたが、改正により上限が法律に格上げされ、罰則付きの規制となった点が実務上の大きな変化です。

Elencoの条文検索で「労働基準法32条」「36協定」「時間外労働 上限」を検索すると、本記事に加えて割増賃金(37条)・休憩(34条)・年次有給休暇(39条)との関連論点を横断して確認できる。

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