刑法の因果関係は、条件関係(事実的因果関係)と法的因果関係の二段階で処理されるのが基本である。法的因果関係については、伝統的な相当因果関係説と、近時の判例の採る危険の現実化説が論点となる。本稿でこの構造を整理する。
扱うのは、①条件関係、②相当因果関係説(主観的・客観的・折衷説)、③危険の現実化説、④介在事情のある事案、⑤論証の組み立て、の順である。
条件関係——事実的因果関係
条件関係は『その行為がなければその結果は発生しなかった』という関係(sine qua non)として理解される。論理的には因果関係の出発点であり、まずここを充足するかを確認する。条件関係を欠く場合は、法的因果関係を論じるまでもなく因果関係が否定される。
相当因果関係説の3バリエーション
相当因果関係説の立場
主観的相当因果関係説
行為者が認識していた事情と認識可能であった事情を基礎に、結果発生が相当か否かを判断する立場である。
客観的相当因果関係説
行為時点で客観的に存在した事情と、その後に通常生じうる事情を基礎に、結果発生が相当か否かを判断する立場である。
折衷的相当因果関係説
行為者が認識していた事情と、行為時点で一般人が認識可能であった事情を基礎に判断する立場である。学説上は折衷説が有力に主張されてきた。
危険の現実化説——判例の立場
近時の判例は、相当因果関係説の枠組みを徐々に修正し、行為がもつ危険が結果へと現実化したと評価できるかを基準とする整理(危険の現実化説)を採るに至っている。最決平成2年11月20日(大阪南港事件)は、被害者に対する暴行行為の危険が、被害者の脳出血による死亡という結果に現実化したと評価できる旨を示し、その後の判例で広く参照される枠組みを示した。 最決昭和51年3月16日(米兵ひき逃げ事件)も、行為の危険性と結果との関係について、危険の現実化の発想に親和的な処理が見られる事案として位置づけられる。
論文では、危険の現実化を基準としつつ、行為の危険性の内容、介在事情の異常性・寄与度、結果との結びつきを本件事実から評価する。介在事情がある事案では、その介在事情が行為の危険を実現するルートに乗っていたといえるか、それとも行為の危険とは独立した新たな危険として結果を招いたか、の評価が中心となる。
介在事情のある事案
因果関係が問題となる典型場面は、行為と結果の間に第三者の行為、被害者自身の行為、自然現象などの介在事情が挟まる事案である。論文では、(i) 行為が結果に対して持っていた危険性の大きさ、(ii) 介在事情の異常性、(iii) 介在事情が結果に対して与えた寄与度、を順に整理し、行為の危険が介在事情を介して結果に現実化したと評価できるかを論じる。
論証の組み立て方
因果関係の論証
問題の所在
本件では、Xの行為とAの死亡(傷害)との間に刑法上の因果関係が認められるかが問題となる。
二段階の枠組み
因果関係は、条件関係(事実的因果関係)と法的因果関係の二段階で判断する。法的因果関係については、近時の判例の整理は、行為の危険が結果へと現実化したと評価できるかという基準(危険の現実化説)による。
判例の引用
最決平成2年11月20日(大阪南港事件)は、行為の危険性が結果に現実化したかを判断枠組みとして示した代表例として参照される。
規範の趣旨
結果責任を回避しつつ、社会的に相当でない危険を作出した行為に対して結果の帰属を認める、という考え方に基づく整理である。
当てはめ
本件では、Xの行為の危険性、介在事情の異常性、介在事情の結果への寄与度を本件事実から評価し、行為の危険が結果に現実化したと評価できる(あるいはできない)。
結論
以上から、Xの行為とAの死亡との間に因果関係が認められる(あるいは認められない)。
よくある質問
Q. 条件関係はどう論じるか
A.『その行為がなければその結果は発生したか』という反事実的判断で論じる。
条件関係を欠く場合には法的因果関係を論じるまでもなく因果関係が否定されるため、最初に必ず充足を確認する。
Q. 判例は相当因果関係説と危険の現実化説のどちらか
A.近時の判例は、相当因果関係説の枠組みを修正し、行為の危険が結果へと現実化したと評価できるかを基準とする整理(危険の現実化説)に親和的である。
最決平成2年11月20日(大阪南港事件)が代表例として参照される。
Q. 介在事情がある場合はどう書くか
A.行為の危険性、介在事情の異常性、介在事情の結果への寄与度を本件事実から評価し、行為の危険が介在事情を介して結果に現実化したといえるかを論じる。
介在事情が行為の危険とは独立した新たな危険として結果を招いた場合には、因果関係が否定される方向となる。
Q. 相当因果関係説の3立場はどれで書くか
A.答案では、立場を明示してから論じることが大切である。
判例の近時の整理が危険の現実化説に親和的である以上、相当因果関係説で書く場合でも、危険の現実化説との関係を意識して論じると安定する。