予備試験の民事訴訟法論文は、事案から訴訟物を特定し、弁論主義のもとで主張・立証を整理し、判決の既判力の及ぶ範囲を論じる、という流れで処理されることが多い。条文を順に追うのではなく、この処理手順を骨格として持っておくと、答案が安定する。本稿でこの構造を整理する。
扱うのは、①訴訟物理論、②弁論主義の3テーゼ、③既判力(114条)の客観的範囲と時的限界、④処分権主義(246条)、⑤論文の組み立て、⑥学習の進め方、の順である。処分権主義の整理は民事訴訟法246条もあわせて参照してほしい。
訴訟物理論
訴訟物とは、訴訟の対象となる権利関係であり、判決の効力(既判力)の客観的範囲を画する基準となる。旧訴訟物理論は、実体法上の請求権ごとに訴訟物を画定する立場で、判例の整理に親和的である。新訴訟物理論は、給付の単一性を重視して、社会的に同一性のある給付を一つの訴訟物として把握する立場であり、学説上の有力説である。 論文では、どの立場を採るかを明示してから処理を進めるのが安定する。
弁論主義の3テーゼ
弁論主義の3つのテーゼ
第1テーゼ 主要事実の主張責任
判決の基礎となる主要事実は、当事者が主張しない限り裁判所はこれを判決の基礎にできない。間接事実や補助事実は弁論主義の対象外と整理されるのが一般的である。
第2テーゼ 自白の拘束力
当事者間で争いのない主要事実については、裁判所はこれをそのまま判決の基礎としなければならず、反対の事実認定はできない。
第3テーゼ 職権証拠調べの禁止
争いのある事実については、裁判所は当事者が申し出た証拠によってのみ判断し、職権で証拠調べを行うことは原則として許されない(民訴179条等の関係条文がある)。
既判力の客観的範囲と時的限界
1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。 2項 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
既判力は、原則として主文の判断のみに生じ(114条1項)、判決理由中の判断には及ばないとされる。例外として、114条2項は相殺の抗弁について、判決理由中の判断にも既判力を認める。時的限界(基準時)は事実審の口頭弁論終結時とされ、その時点までに主張可能であった事由は、後訴において再主張することが既判力により遮断される(遮断効)。
処分権主義——246条
民事訴訟法246条は、裁判所が当事者の申し立てていない事項について判決をすることを禁ずる。申立事項を超える判決か否かは、量的超過・質的超過・一部認容の3類型で整理して判断する。詳細は民事訴訟法246条 処分権主義を参照してほしい。
学習の進め方
民訴学習の進め方
概念ごとに整理する
民訴は条文の量に対して概念のかたまりが少ない。訴訟物・弁論主義・既判力・処分権主義といった単位で整理し、各概念のなかの典型論点を順に押さえると学習が早く進む。
条文と論点を対応づける
民訴は条文番号を覚えるだけでは答案で使いにくい。条文と論点を対応づけ、当該論点がどの条文の解釈問題として議論されるのかをセットで把握する。
過去問で処理手順を身につける
過去問を時間を計って解き、訴訟物の特定→弁論主義のもとでの主張・立証→既判力の効果という流れを再現する。書いた答案を判例・条文と照らして振り返ることで、処理の精度が上がる。
よくある質問
Q. 旧訴訟物理論と新訴訟物理論のどちらで書くべきか
A.答案では立場を明示することが大切である。
判例と整合的な旧訴訟物理論で書くのが安定する場面が多いが、新訴訟物理論で書く場合は理由を簡潔に示したうえで一貫して処理する。途中で立場を変えるとブレが目立つので避ける。
Q. 弁論主義の3テーゼはどの場面で使うか
A.事実認定や証拠の取扱いを論じる場面で繰り返し登場する。
主要事実と間接事実の切り分け、自白の成否、職権証拠調べの可否、といった切り口で当てはめる。
Q. 既判力はどこまで及ぶか
A.原則として主文の判断のみに既判力が及ぶ(114条1項)。
相殺の抗弁については114条2項により判決理由中の判断にも既判力が及ぶ。時的限界は事実審の口頭弁論終結時とされ、その時点までに主張可能だった事由は後訴で遮断される。
Q. 処分権主義と弁論主義はどう違うか
A.処分権主義は訴訟物の特定と審判範囲を当事者に委ねる原則であり、246条がその典型である。
弁論主義は訴訟資料(主要事実・自白・職権証拠調べ)の収集を当事者に委ねる原則であり、規律する場面が異なる。