刑法252条1項は、自己の占有する他人の物を横領した者を処罰する。要件は、自己の占有・他人の物・横領(不法領得の意思の発現)の3つだが、占有概念の広さ、委託信任関係を介した『他人の物』の捉え方、不法領得の意思の客観化など、当てはめで迷いやすい論点が並ぶ。 本稿でこれらを整理する。
扱うのは、①横領罪の3要件、②横領罪における占有概念、③不法領得の意思(最判昭和24年3月8日)、④横領後の横領(最大判平成15年4月23日)、⑤業務上横領罪(253条)と背任罪との区別、⑥論証の組み立て、の順である。財産犯全体の整理は刑法235条 窃盗罪もあわせて参照してほしい。
条文と3要件
1項 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。 2項 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
横領罪(252条1項)の3要件
自己の占有
横領罪における占有は、窃盗罪における占有よりも広く理解されている。事実上の支配だけでなく、不動産の登記名義に基づく法律上の支配(登記による占有)も含む。委託信任関係に基づいて他人の物を支配下に置いていることが核心であり、単に物理的に手元にあるかどうかでは判断されない。
他人の物
他人の所有物であることが必要となる。金銭については原則として占有者の所有に帰すると整理されることが多いが、特定の使途に限定して預けられた金銭など、委託者に所有権が留保されていると評価される場合には『他人の物』にあたる。委託信任関係の内容を具体的に拾うことが当てはめの中心になる。
横領(不法領得の意思の発現)
横領は、不法領得の意思を実現する一切の行為と理解されている。売却・贈与・抵当権設定・私的流用などの外形的な処分行為を通じて不法領得の意思の発現が認定される。意思の存否は外形的処分行為から客観的に推認される。
不法領得の意思の意義
横領罪における不法領得の意思について、最判昭和24年3月8日は、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう旨を示した。窃盗罪・強盗罪における不法領得の意思(権利者排除意思+利用処分意思)とは、定義の力点が異なる点に注意する必要がある。
横領罪の場合、占有自体は委託に基づいて適法に取得されているため、『権利者排除』の局面ではなく、『委託の任務に背いて所有者でなければできない処分をする』点に違法評価の中心がある。論文では、外形的な処分行為の内容と委託の趣旨を対比し、委託の範囲を超える処分があったといえるかを当てはめる構造になる。
横領後の横領
一度横領罪が成立した物について、占有者が再度処分行為をした場合に、後行の処分も横領罪として処罰されるかが問題となる。最大判平成15年4月23日は、先行する横領行為によって横領罪が成立した後も、後行の処分行為について新たな横領罪が成立しうる旨を示した。 先行横領が既遂に達しても、占有が継続している以上、後行の処分行為について独立に違法評価がされる構造である。
論文では、罪数処理の場面で、先行行為と後行行為を併合罪として処理するか、包括一罪として処理するかを、判例の整理に沿って論じることになる。
業務上横領罪・背任罪との区別
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
業務上横領罪(253条)は、252条の3要件に加え、業務として他人の物を占有していたことを要件とする加重類型である。ここでいう業務は、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務をいい、職務として他人の財産を管理する立場にある者の横領行為が典型的である。
背任罪(247条)との区別では、本人の物を処分する行為(典型的には売却・流用)は横領罪、本人のためにする事務に関して任務に背き、本人に財産上の損害を加える行為は背任罪、と整理するのが一般的である。両者の境界が問題となる事案では、被告人の行為が『他人の物の処分』として把握できるか、それとも『本人のためにする事務の任務違背による損害発生』として把握すべきかを、行為態様に即して論じることになる。
論証の組み立て方
横領罪の論証
問題の所在
本件で問題となるのは、Xが甲物について横領罪(刑法252条1項)を成立させるかである。
要件の特定
横領罪は、自己の占有、他人の物、横領を要件とする。本件で特に争点となるのは〇〇要件である。
判例の枠組み
不法領得の意思について、最判昭和24年3月8日は『委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思』をいう旨を示している。
規範の趣旨
委託信任関係を裏切る形での処分を処罰することで、財産的法益と委託関係の保護を図る趣旨である。
当てはめ
本件では、〇〇という委託の趣旨のもとで、〇〇という処分行為が行われており、委託の範囲を超える処分として不法領得の意思の発現が認められる(あるいは認められない)。
結論
以上から、Xには横領罪が成立する(あるいは成立しない)。業務上の占有が認められる場合には253条の業務上横領罪となる。
よくある質問
Q. 横領罪と窃盗罪はどう区別するか
A.占有が誰にあるかで区別する。
横領罪は自己が占有している他人の物が対象であり、窃盗罪は他人が占有している他人の物が対象である。占有の所在を最初に確定することが、両罪の振り分けの出発点になる。
Q. 横領罪と背任罪はどう区別するか
A.他人の物の処分行為は横領罪、本人のためにする事務に関して任務に背き本人に財産上の損害を加える行為は背任罪、と整理される。
境界事案では、行為態様を『物の処分』としてみるか『事務の任務違背』としてみるかを具体的に論じる必要がある。
Q. 金銭の場合の『他人の物』はどう判断するか
A.金銭は原則として占有者の所有に帰すると整理されることが多いが、特定の使途に限定して預けられた金銭など、委託者に所有権が留保されていると評価さ
Q. 不法領得の意思はどう認定するか
A.占有者の主観そのものを直接立証することは難しいため、売却・抵当権設定・私的流用といった外形的処分行為から推認するのが通常である。
委託の趣旨に照らして、当該処分が『所有者でなければできない処分』にあたるかを評価する。
Q. 横領後の横領は処罰されるか
A.最大判平成15年4月23日は、先行する横領罪が成立した後も、後行の処分行為について新たな横領罪が成立しうる旨を示した。
罪数処理は併合罪・包括一罪のいずれかで論じることになる。