民法9
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Elenco編集部監修・編集
公開 2026.05.07最終更新 2026.05.18

民法505条 相殺の要件——4要件と差押え・改正後509条の整理

この記事のポイント

民法505条の相殺について、4要件(同種債権・対立・弁済期・債務の性質)、差押え後の相殺(最大判昭和45年6月24日 富士火災事件 無制限説)、改正後509条の不法行為債権相殺禁止の範囲、改正後511条との関係を整理する。

民法505条は、対立する債権関係において、対当額で債務を消滅させる相殺の要件を定める。論文では、4要件のうちどの要件が問題となるか、差押えと相殺の優劣をどう整理するか、改正後509条の相殺禁止の範囲をどう示すか、が中心的な争点となる。

①505条の4要件、②差押え後の相殺(最大判昭和45年6月24日 富士火災事件・無制限説)、③改正後509条の不法行為債権相殺禁止、④改正後511条の整理、⑤論証の組み立て、の順で扱う。関連条文として 民法415条 債務不履行民法703条 不当利得 と合わせて読むと、債権の消滅・効力の体系が見渡しやすい。

505条の4要件

条文
民法505条1項(相殺の要件等)

二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

505条1項から、①二人が互いに債務を負担すること(債権の対立)、②同種の目的を有する債務であること、③双方の債務が弁済期にあること、④債務の性質が相殺を許すこと、の4点が要件として導かれる。受働債権の弁済期は、相殺者が期限の利益を放棄することで前倒しすることが可能であり、実際の論文では自働債権の弁済期到来がより重要になる場面が多い。

民法505条 4要件の整理

債権の対立

相殺者が相手方に対して債権(自働債権)を有し、相手方が相殺者に対して債権(受働債権)を有するという、互いに債権を有する関係が必要となる。

同種の目的

金銭債権同士のように、給付の目的が同種であること。種類債権・金銭債権で問題になることが多い。

弁済期

自働債権の弁済期は到来していなければならない。受働債権の弁済期は、相殺者が期限の利益を放棄することで前倒しできるため、相殺の障害にならないことが多い。

債務の性質

相殺を許さない性質の債務でないこと。意思表示による相殺禁止の合意、法律上の相殺禁止(509条等)に該当しないことを意味する。

差押え後の相殺——最大判昭和45年6月24日

受働債権が差し押さえられた後に、第三債務者が差押債務者に対する自働債権を取得した場合や、自働債権の弁済期が後に到来した場合、第三債務者は差押債権者に対し相殺をもって対抗できるかという論点がある。最大判昭和45年6月24日(富士火災事件)は、いわゆる無制限説の立場をとり、差押え前から存在していた債権について、その後弁済期が到来して相殺適状に達した場合の相殺を、差押債権者に対しても主張できる旨を判示した。

改正後511条1項は、差押え前に取得した自働債権に基づく相殺について、差押え後の相殺適状到来であっても差押債権者に対抗できる枠組みを明文化している。論文では、富士火災事件の無制限説の趣旨(合理的な相殺期待の保護)と、改正後511条の条文構造を合わせて整理する形になる。

民法505条 4要件と相殺禁止の判定フロー
民法505条 相殺の要件と禁止同種債権の対立 / 弁済期到来 / 債務の性質差押えと相殺 — 最大判S45.6.24(無制限説)改正後511条 — 差押え前取得の自働債権による相殺改正後509条 — 悪意の不法行為・生命身体侵害は相殺禁止

改正後509条の不法行為債権相殺禁止

改正前509条は、不法行為に基づく損害賠償の債務全般について、債務者からの相殺を禁じていた。改正後509条はこの範囲を縮減し、①悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務、②人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務、に限定して相殺を禁止する。 改正前から維持されている被害者保護の趣旨を、より類型を絞った形で受け継ぐ構成である。

答案では、不法行為に基づく損害賠償債務が問題となるとき、それが①悪意による不法行為かどうか、②生命又は身体の侵害に当たるかどうか、を順に確認した上で、改正後509条の適用範囲に当たるかを示す形になる。これらに当たらない場合は、509条による相殺禁止の対象外となる。

論証の組み立て

民法505条 論証構成例

問題提起

Xが、Aに対する自働債権をもって、AのXに対する受働債権と相殺できるか(民法505条1項)を検討する。

規範

505条1項は、相殺の要件として、同種債権の対立、弁済期の到来、債務の性質が相殺を許すことを要求する。差押えとの関係では、最大判昭和45年6月24日(富士火災事件)が無制限説の立場をとっており、差押え前から存在していた自働債権について、相殺適状の到来が差押え後であっても差押債権者に対抗できる。改正後511条1項も同様の枠組みを明文化している。

当てはめ

本件において、自働債権と受働債権が同種であること、自働債権の弁済期が到来していること、改正後509条の相殺禁止(悪意の不法行為・生命身体侵害)に該当しないことを順に確認する。差押えが介在する場合は、自働債権の取得時期と差押えの先後関係を明示する。

結論

以上より、Xの相殺の意思表示により、対当額について相殺の効力が生じる(あるいは、改正後509条の相殺禁止に該当して相殺できない)。

FAQ

Q. 受働債権の弁済期が未到来でも相殺できるか

A.受働債権の弁済期は、相殺者が期限の利益を放棄することで前倒しでき、これにより相殺適状を作り出すことができる。

これに対し、自働債権の弁済期が未到来の場合は、相手方に期限の利益を一方的に奪う結果となるため、原則として相殺できない。

Q. 差押え後に取得した自働債権で相殺できるか

A.改正後511条1項は、差押え前に取得した自働債権による相殺を差押債権者に対抗できるとし、差押え後に取得した自働債権による相殺は原則として認められない。

ただし、同条2項は、差押え後に取得した債権であっても、その取得が差押え前の原因に基づく場合などには、相殺を対抗できる場面を定めている。

Q. 改正後509条の相殺禁止はどの範囲にかかるか

A.①悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務、②人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務、の2類型について、加害者側からの相殺が禁止される。

被害者側からの相殺は禁止されない。物損のみの過失不法行為に基づく損害賠償債務は、改正後509条の禁止の対象外である。

Q. 受働債権が時効により消滅した後でも相殺できるか

A.民法508条は、時効消滅した債権であっても、その消滅以前に相殺適状にあったときは、債権者は相殺をすることができるとしている。

相殺適状時点を起点として、当事者の相殺期待を保護する規定として機能する。

Q. 相殺の意思表示は何によって効力を生じるか

A.民法506条1項により、相殺は相手方に対する意思表示によって行う。

同条2項により、相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時、すなわち相殺適状時に遡って効力を生じる。

Elencoでは、民法505条・506条・508条・509条・511条の条文ビュー、最大判昭和45年6月24日(富士火災事件)の判旨、改正前後の対比を一画面で参照できる。条文・判例・AI演習を行き来したい場合は、条文を検索する または この論点をAI演習する から入ってほしい。

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