「甲と乙が共謀したが、実行行為を行ったのは乙だけ。甲に共同正犯は成立するか」——この設問を見た瞬間に手が止まった経験はないだろうか。あるいは、答案に「共謀共同正犯が成立する」とだけ書いて、なぜ実行行為を担当しない者が正犯になるのかを論じ切れずに失点した受験生は多い。共同正犯は刑法総論の中でも出題頻度が特に高く、共謀共同正犯・共謀の射程・過剰行為の帰責という三つの論点が複合して問われることが珍しくない。条文の文言は短いが、その背後には正犯と共犯の区別・共同意思の本質・因果的共犯論という深い理論的争いが横たわっている。条文を正確に読めていない受験生、判例の論理を答案に乗せられていない受験生は、この記事で一気に体系を整理してほしい。
この記事を読むことで、次の三点が得られる。①刑法第60条の文言から成立要件を正確に分解し、各要件の意味を判例・通説に基づいて理解できる。②共謀共同正犯の根拠・正犯性の判断基準(最高裁の判断枠組み)を答案に書ける形で習得できる。③共謀の射程・過剰行為・共犯からの離脱という隣接論点との切り分けができるようになる。予備試験では2015年・2018年・2021年・2023年の論文式試験で共同正犯の論点が出題されており、司法試験本体でも複数年度にわたって出題が確認されている最重要分野である。
条文を正確に読む
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
条文はわずか一文だが、この中に要件と効果が凝縮されている。「二人以上」が主体要件、「共同して」が共同実行意思(共謀)要件、「犯罪を実行した」が実行行為要件、「すべて正犯とする」が法律効果である。ここで注意すべきは「実行した」という文言だ。文理上は全員が実行行為を分担することが要求されているようにも読める。しかし判例・通説は、この「実行」を厳密な構成要件的行為の分担とは解釈せず、「共同して犯罪を実現すること」と広く読む。これが共謀共同正犯を認める理論的出発点となる。また刑法第61条(教唆)・刑法第62条(幇助)との対比として、正犯たる地位が認められると刑が軽減されない点(教唆・幇助は従属的地位)を押さえておくことが重要である。
趣旨・制度目的
刑法第60条が「一部実行全部責任」の原則を定める理由は何か。単独犯では実現困難な犯罪も、複数人が役割分担することで容易に実現できる。この「相互利用・補充関係」によって犯罪実現の危険性が質的に高まる点に、共同正犯の刑事責任を加重する根拠がある。通説である行為共同説の立場(平野龍一『刑法総論Ⅱ』有斐閣)は、各人が行為を共同するという事実的基礎に共同正犯の根拠を求める。これに対し犯罪共同説(団藤重光『刑法綱要総論〔第三版〕』創文社)は、特定の犯罪を共同して実現するという意思の共同に根拠を置く。現在の判例・多数説は行為共同説的発想に近く、各人の行為が相互に利用・補充しあって犯罪結果を実現した場合に全員を正犯とする立場を採る。この趣旨から、共謀のみ担当して現場に不在の者であっても、共謀が実行行為を心理的・因果的に支えた(正犯性の根拠)と評価できる場合には共同正犯が成立することになる。
成立要件の分解
刑法第60条・共同正犯の成立要件
① 共謀(共同実行の意思)
二人以上の者の間に、特定の犯罪を共同して実行しようとする意思の合致があることが必要。明示的な事前謀議である必要はなく、黙示的・順次的な共謀でも足りる(最高裁昭和33年5月28日判決・刑集12巻8号1718頁)。重要なのは意思の合致の内容が「何の犯罪か」「どのような態様か」について共通認識を持つことであり、この範囲が後述する「共謀の射程」の問題に直結する。
② 共同実行(相互利用・補充関係)
各関与者の行為が相互に利用・補充しあって犯罪の実現に寄与していること。全員が構成要件的行為を分担する必要はないが、それぞれの行為が当該犯罪の実現に対して因果的に貢献していなければならない。判例は「共謀に基づく実行行為の存在」をもって共同実行と評価する(最高裁昭和33年5月28日判決)。
③ 正犯性(共謀共同正犯における核心的要件)
実行行為を担当しない共謀者について正犯性が認められるためには、①当該犯罪の実現に対する重要な役割(重要性基準)と②それを実行させるだけの主体的意思(主体性基準)が必要とされる。最高裁平成15年5月1日決定(刑集57巻5号507頁・百選I-83)は「共謀における主導的役割、犯罪実現に対する積極的意思、利益の帰属」を総合判断する立場を示す。
④ 故意(各人について個別に判断)
共同正犯の成立には、各共謀者が当該犯罪について故意を有していることが必要。故意は各人について個別に判断される(刑法第38条第1項参照)。したがって、甲が強盗を共謀したが乙が殺人まで実行した場合、甲に殺人罪の故意がなければ強盗致死罪の限度で共同正犯が成立しうるかという問題(量的過剰)が生じる。
共謀共同正犯の根拠と判例の論理
共謀共同正犯とは、二人以上の者が犯罪の実行を共謀し、そのうちの一部の者(実行担当者)がその共謀に基づいて犯罪を実行した場合に、実行行為を担当しなかった共謀者にも刑法第60条の共同正犯を認める理論をいう。大審院大正11年2月25日判決(大審院刑事判例集1巻79頁)以来、判例は一貫して共謀共同正犯を肯定してきた。理論的根拠として判例が採用するのは「間接正犯類似説」ないし「共同意思主体説」ではなく、「相互利用・補充関係に基づく正犯性」という実質的な基準である。すなわち、共謀者が実行担当者を通じて犯罪を実現させたという因果的支配が認められる場合に、共謀者も正犯としての責任を負うという論理である。
重要判例
【判例①】最高裁昭和33年5月28日判決(刑集12巻8号1718頁)——いわゆる「練馬事件」。複数の組合員が共謀のうえ警察官を暴行・傷害した事案で、最高裁は共謀共同正犯の成立について「二人以上の者が特定の犯罪を行うため共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められれば、直接実行行為に関与しない者でも共謀者として刑法第60条の共同正犯として罰するのを妨げない」と判示した。この判示は①共同意思の下に一体化、②相互利用・補充関係、③謀議への参加という三要素を共謀共同正犯の核心として示したものであり、現在においても共謀共同正犯を論じる際の出発点判例として機能する。射程として、事前の謀議への参加が明確に認定できる事案全般に及ぶ。
【判例②】最高裁平成15年5月1日決定(刑集57巻5号507頁・百選I-83)——いわゆる「スワット事件」。暴力団組長が部下に対して指示を出したが自らは犯行現場に赴かなかった事案。最高裁は、「被告人は本件犯行を共謀したと認定した原判決の判断は正当」とした上で、「被告人が本件犯行において果たした役割、犯行に用いられた拳銃等の入手経緯、犯行への被告人の積極的関与の程度等に照らせば、被告人には本件各犯行につき共謀共同正犯が成立する」と判示。本決定は組長型の共謀共同正犯における正犯性判断として「①犯罪実現への積極的関与(主導性)、②犯行手段の提供・利益の帰属、③現場不在でも犯行を心理的に支配する程度の影響力」を総合的に考慮する判断枠組みを示したものとして、答案においても参照すべき最重要決定の一つである。射程として、組織的背景がある事案のほか、離れた場所から指示・命令を行う型の共謀共同正犯一般に及ぶ。
【判例③】最高裁平成17年11月29日決定(刑集59巻9号1847頁・百選I-85)——いわゆる「ひったくり共謀の射程」関連で参照される判例。共謀の射程について、「共謀において予定していた犯罪の範囲を逸脱した実行担当者の行為について、逸脱部分は共謀の射程外となり共謀者には帰責されない」という枠組みが判例上定着している。本件では共謀した行為態様と実際の実行態様の乖離が問題となり、実行行為が共謀の内容を逸脱した部分については共謀者に帰責しないことを認めた。答案では「共謀の射程」という言葉を使う際、必ずこの判例の枠組みに基づいて「当初の共謀の内容・認識に照らして当該実行行為が射程内か否か」を具体的事実に即して論じなければならない。
試験での出題傾向
共同正犯・共謀共同正犯は予備試験・司法試験を通じて最頻出の総論論点の一つである。単独で問われることもあるが、近年は共犯からの離脱・共謀の射程・過剰行為との組み合わせで問われるパターンが増加している。以下に代表的な出題パターンを整理する。
- 【パターン①:共謀共同正犯の成否】実行行為を担当しない甲に共同正犯が成立するか(予備試験2015年・2021年)
- 【パターン②:共謀の射程】当初の共謀に含まれない行為を実行担当者が行った場合、共謀者への帰責範囲(司法試験2017年・予備試験2018年)
- 【パターン③:過剰行為(量的・質的過剰)】共謀した犯罪を超えた実行について共謀者の責任をどこまで認めるか(予備試験2023年)
- 【パターン④:共犯からの離脱・中止犯との関係】共謀後・実行前または実行中に一方が離脱した場合の処理(司法試験2019年)
- 【パターン⑤:承継的共同正犯】先行者の行為途中から加担した者への帰責範囲(予備試験2016年)
論証の型——そのまま答案に書ける形
以下に共謀共同正犯の成否を問う設問に対する答案論証の型を示す。この型を習得したうえで、事案の具体的事実を当てはめる練習を繰り返すことが合格への近道である。
【規範定立パート】刑法第60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と規定する。この「共同して実行」の意義について、判例(最高裁昭和33年5月28日判決・刑集12巻8号1718頁)は、二人以上の者が共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用・補充し合いながら犯罪を実行することをいい、直接実行行為を担当しない者(共謀者)にも共同正犯の成立を認める(共謀共同正犯)。共謀共同正犯が成立するためには、①特定の犯罪を共同して実行しようとする意思の合致(共謀)、②共謀に基づく実行行為の存在、③共謀者の正犯性(犯罪実現への主導的・積極的関与および相互利用・補充関係)が必要と解する。
当てはめのコツ
当てはめでは以下の三点を意識する。第一に、共謀の認定:事前の具体的謀議の有無・内容、黙示の意思合致でも足りるが「何の犯罪を」「どのような態様で」行うかの共通認識があることを具体的事実から摘示する。「二人で話し合いAを殴ることを決めた」という事実があれば傷害罪についての明示の共謀が認定できる。第二に、正犯性の評価:共謀者が実行行為を担当しない場合、①計画立案・指示の主導性(「計画を立案し実行役に指示した」)、②犯行手段の提供(凶器・資金の提供)、③利益の帰属(犯罪利益が共謀者に帰属するか)、④実行担当者への心理的強制・影響力の程度、を事実から積み上げて評価する。第三に、共謀の射程:実行担当者の行為が当初共謀した内容から逸脱している場合、「当初の共謀の内容(認識していた犯罪の種類・態様・程度)」と「実際の実行行為」を対比し、逸脱の程度が共謀者の予見可能な範囲内かどうかを論じる。予見可能な範囲内であれば射程内として帰責、範囲外であれば逸脱として帰責しない。
よくある間違い・落とし穴
- 【誤り①:正犯性の論証を省略する】「甲と乙は共謀したので共同正犯が成立する」で終わらせる。実行行為を担当しない者について正犯性が認められるかを必ず論じること。共謀の事実だけでは足りず、正犯としての積極的関与を評価しなければならない。
- 【誤り②:共謀の射程と故意の錯誤を混同する】実行担当者が共謀外の行為をした場合、これを「故意なき行為への帰責」として処理しようとする誤り。正確には「共謀の射程(因果的帰責の問題)」として論じたうえで、射程内と判断された場合にはじめて共謀者の故意との対応を検討する。
- 【誤り③:過剰行為をすべて「帰責しない」と処理する】共謀した傷害行為から実行担当者が殺人行為に及んだ場合、傷害致死罪の限度での共同正犯を検討せずに全部無罪にしてしまう。量的過剰については、共謀の範囲内の罪(傷害罪・傷害致死罪)の限度で共同正犯の成立を認める処理が必要。
- 【誤り④:共犯からの離脱を実行前後で区別しない】離脱の効果を論じる際、実行着手前の離脱(共謀の解消で足りる)と実行着手後の離脱(結果の防止まで必要)で要件が異なる(最高裁平成21年6月30日決定・刑集63巻5号475頁)。この区別を意識せずに一律の基準で論じると減点される。
- 【誤り5:刑法第60条の「すべて正犯」の意味を誤解する】「すべて正犯とする」とは各人を独立した正犯として処罰するという意味であり、共同正犯者全員が同じ犯罪で同じ刑を受けるという意味ではない。各人の故意・責任は個別に判断されるため、甲と乙で異なる罪が成立することもある。
共謀の射程——詳細分析
「共謀の射程」は近年の司法試験・予備試験で最も問われる論点の一つである。共謀の射程とは、当初の共謀の内容に基づいて、実行担当者が行った行為の全部または一部を他の共謀者に帰責できるかという問題をいう。判断枠組みは、①当初の共謀において認識・合意された犯罪の種類・態様・程度、②実際の実行行為の内容、③両者の差異が共謀者の予見可能な範囲内かどうか、の三段階で論じる。例えば、「甲と乙がAに対する傷害を共謀し、実行中に乙がAを殺害した」という事案では、共謀の内容は傷害罪であり、殺人行為は原則として射程外となる。しかし「甲が乙にナイフを渡した」「甲が乙に被害者への強い怒りを煽る言動をした」等の事実があれば、殺人行為が予見可能な範囲内として射程内と評価される余地がある。答案では「射程内か射程外か」という結論だけでなく、具体的事実に基づく評価プロセスを丁寧に示すことが高評価につながる。
隣接論点との比較
共同正犯と隣接論点の比較
共同正犯(刑法第60条)vs 教唆犯(刑法第61条)
共同正犯は「共同意思のもとに一体となって実行」するもので全員が正犯。教唆犯は正犯者に犯罪実行の決意をさせた者で、正犯に従属する(従犯的地位)。実務上の区別基準は「自己の犯罪として実行させたか(正犯意思)」か「他人の犯罪を利用したか(幇助・教唆意思)」という主観面と、「実行行為への支配・関与の程度」という客観面を総合判断する(最高裁昭和25年7月6日判決・刑集4巻7号1178頁参照)。
共謀共同正犯 vs 間接正犯
間接正犯は他人を道具として利用して犯罪を実現するもので、利用される者に責任能力がない・意思が抑圧されている場合。共謀共同正犯は利用される者(実行担当者)が完全な責任能力・意思を持ち、共謀に自主的に参加している点で異なる。実行担当者が意思の抑圧下にある場合は間接正犯として処理し、共謀共同正犯の問題にはならない。
共同正犯 vs 同時犯
同時犯は複数人が意思の連絡なく同時に犯罪を行うもの。共同正犯には意思の合致(共謀)が不可欠であり、各人を別個の単独犯として処理する同時犯とは根本的に異なる。同時犯の場合は一部実行全部責任の原則が適用されず、各人が自己の行為の結果のみについて責任を負う。
共犯からの離脱 vs 中止犯(刑法第43条但書)
共犯からの離脱は、共同正犯が成立した後に一方が関係を解消して結果に対する責任を免れる問題。中止犯(刑法第43条但書)は未遂犯の一態様で、自己の意思による犯罪の中止に刑の必要的減免を認めるもの。共犯からの離脱が認められれば既遂結果への帰責がなくなる(犯罪不成立または未遂への変更)のに対し、中止犯は犯罪の成立を前提として刑を減免する点で異なる。
承継的共同正犯 vs 途中加担の幇助
承継的共同正犯は先行者の実行行為途中から加担した後行者について、先行者の行為・結果まで帰責できるかという問題。判例(最高裁平成24年11月6日判決・刑集66巻11号1281頁・百選I-87)は「後行者が先行者の行為及びその結果を自己のものとして利用した場合に限り、先行者の行為後の行為・結果について共同正犯が成立する」として限定的に承継を認める。先行者の行為を単に認識したに過ぎない場合は承継的共同正犯は成立せず、幇助犯にとどまる。
過剰行為(量的過剰・質的過剰)の処理
共謀した内容を超えた実行行為が行われた場合、共謀者への帰責をどう処理するかは答案上重要な問題である。量的過剰とは、共謀した犯罪と同種だが程度が超過した場合(傷害を共謀したが死亡結果が生じた等)をいい、質的過剰とは共謀した犯罪と種類が異なる行為が行われた場合(傷害を共謀したが殺意を持って殺害した等)をいう。量的過剰の場合、共謀の射程内にある行為については共同正犯が成立し(傷害致死罪の限度での共同正犯)、超過部分(死亡の結果への正犯責任)は実行担当者のみが負う。質的過剰の場合、原則として超過行為は共謀の射程外となり、共謀者には当初共謀した罪(例:傷害罪)の共同正犯のみ成立する。ただし共謀者が質的過剰行為を予見できた場合(例:ナイフを渡した等の事情)には、当該超過行為についても共謀の射程内として帰責する余地がある点を答案で論じることが評価につながる。
まとめ
刑法第60条の共同正犯・共謀共同正犯について以下の要点を再整理する。①成立要件は「共謀(意思の合致)」「共謀に基づく実行行為の存在」「正犯性(主導的・積極的関与)」の三つであり、特に共謀共同正犯では正犯性の論証が核心。②判例の基本枠組みは最高裁昭和33年5月28日判決(練馬事件)と最高裁平成15年5月1日決定(スワット事件)を押さえること。③共謀の射程は「当初の共謀内容と実際の実行行為の乖離の程度・予見可能性」で判断し、射程外の行為については共謀者に帰責しない。④量的過剰・質的過剰はいずれも共謀の射程論として処理し、射程内の罪の限度での共同正犯成立を検討する。⑤共犯からの離脱・承継的共同正犯・教唆犯との区別を正確に理解し、問われた論点を誤って他の論点の処理と混同しないよう注意する。これらを答案の型として定着させることが、この分野での失点を防ぐ最善の方法である。
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