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船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
船舶中の遺言の特別方式
船舶中に在る者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。航海中の特殊環境下の特別方式遺言。
立法趣旨
船舶中は公証人へのアクセスが困難な隔絶環境であり、通常方式の遺言が事実上不可能。船舶の指揮者・事務員と複数証人による立会いで遺言の真正性を確保する代替手段。
977条との比較
977条(伝染病隔離者)は警察官1人+証人1人だが、本条は船長等1人+証人2人。証人数を増やすことで、船舶中の長期的隔絶状況での真正性確保を強化。
船舶遭難時の特則
船舶遭難時は979条により更に簡易な方式(証人2人で口頭遺言)が認められる。一般の船舶中遺言(本条)と遭難遺言(979条)の二段階構造。
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船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
規律
船舶遭難時、当該船舶中で死亡危急に迫った者は証人2名以上の立会いで口頭遺言が可能(1項)。口がきけない者は通訳人通訳による(2項)。証人が趣旨を筆記し署名押印し、証人1名または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に確認請求して確認を得なければ効力を生じない(3項)。976条5項(真意性審査)を準用(4項)。
趣旨
船舶遭難時遺言(特別危急時遺言)。海難という極限状況での遺言の簡略方式。証人2名・筆記事後・遅滞なき確認請求と、976条より要件を緩和した最簡易方式。
976条との対比
①証人3名→2名、②口授+筆記読聞→口頭遺言+事後筆記、③20日以内確認→遅滞なき確認、と全要件で簡略化。極限状況の特殊性が反映されている。
確認期間
「遅滞なく」とは可能となった時から速やかにの意。976条のような厳格な期間制限がないため柔軟だが、不必要な遅延は無効事由となりうる。
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第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
署名押印の方式(977条・978条遺言)
977条(伝染病隔離)・978条(船舶中)の遺言の場合、遺言者・筆者・立会人・証人は各自遺言書に署名し印を押さなければならない。
立法趣旨
特別方式遺言は公証人による厳格な手続を経ないため、関係者全員の署名押印で本人確認と内容承認を確保。真正性担保の代替手段として全員署名押印を要求。
全員署名の意義
遺言者・筆者・立会人・証人それぞれの立場から遺言内容を確認・承認したことを示す。一人でも署名押印を欠けば本条違反として遺言無効となる原則。
981条との連動
署名・押印できない者があるときは、981条により立会人・証人がその事由を付記する。物理的に署名押印不能な場合の代替手続を用意。
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第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
署名・押印不能時の事由付記
977条から979条までの場合(特別方式遺言)において、署名又は押印できない者があるときは、立会人又は証人が、その事由を付記しなければならない。
立法趣旨
特別方式遺言では関係者全員の署名押印が原則必要だが、災害・病気・船舶遭難等の緊急時には署名押印不能な者が生じうる。事由付記による代替で遺言の効力を維持する救済規定。
「事由」の例
重傷・意識不明・指の損傷・印鑑亡失・船舶遭難の混乱等。具体的事情を付記することで真正性を担保しつつ、形式的な署名押印欠如を救済する。
付記者
立会人又は証人が付記する。本人の代筆ではなく第三者の客観的観察を要する。これにより事由の真実性が裏付けられる。
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第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
普通方式規定の特別方式遺言への準用
968条3項(自筆証書遺言の加除変更)・973条〜975条(成年被後見人遺言・遺言能力・共同遺言禁止・証人欠格)の規定は、976条から981条までの規定による特別方式遺言について準用する。
準用の意義
特別方式遺言は緊急・隔絶状況での簡素化された手続だが、遺言の本質的要件(遺言能力・証人適格・共同遺言禁止等)は維持する必要がある。普通方式の核心的規律を準用することで遺言の質を確保。
準用される主な規定
①968条3項:加除変更の方式、②973条:成年被後見人遺言の立会医師要件、③974条:証人欠格、④975条:共同遺言禁止。特別方式でも本質的安全装置を維持。
準用されない規定
公証人の関与・厳格な方式手続等は特別方式の趣旨に反するため準用されない。特別方式は通常方式の簡素化版であり、簡素化された部分は準用排除。
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第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
規律
976条から982条までの規定(特別方式遺言全般=一般危急時・難船・伝染病隔離・在船)によりした遺言は、遺言者が普通方式で遺言できるようになった時から6か月間生存するときは効力を生じない。
趣旨
特別方式遺言は緊急性ゆえの簡略方式であり、危急が去って普通方式が可能になったのに6か月間遺言を作成し直さなければ、もはや特別方式に依拠する必要はないとして失効させる規律。遺言者の真意確認と方式の厳格性の調整。
起算点
「普通方式で遺言できるようになった時」とは病気回復・船舶帰港・隔離解除等で物理的・身体的に普通方式作成が可能になった時点。意識回復だけでなく実際の作成可能性が必要。
効果
6か月生存で遺言は無効化。再度普通方式遺言を作成しない限り遺言なきものとなる。失効は遡及的に発生し、遺言の効力を生じない(最初から無効)。
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日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
2この場合においては、第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者及び証人は、同号の印を押すことを要しない。
領事遺言の特則
在外日本人が公正証書遺言・秘密証書遺言をする場合、駐在領事が公証人の職務を代行する。海外居住者の遺言方式確保のための便宜規定。
押印不要の例外
公正証書遺言の証人押印を定める970条1項4号は適用されず、遺言者・証人とも押印不要。海外では実印慣行が乏しいことへの配慮。
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遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
効力発生時期(1項)
遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
停止条件付遺言(2項)
遺言に停止条件を付した場合に条件が遺言者の死亡後に成就したときは、条件成就の時からその効力を生ずる。
解除条件・始期付
解除条件付遺言は遺言者死亡時に効力発生し条件成就で失効。始期付遺言は始期到来時に効力発生。
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受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
規律
受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄ができる(1項)。遺贈の放棄は遺言者の死亡時に遡及して効力を生じる(2項)。
趣旨
遺贈は受遺者の意思に反して権利を強制すべきでないため、受遺者の自由な放棄を認める。同時に遡及効により遺贈の効果を最初から不発生とし、相続人への帰属(995条)を実現する。
放棄の方法
特定遺贈は遺言者の死後いつでも、相手方(相続人または遺言執行者)に対する意思表示で放棄可能。期間制限なし。包括遺贈は990条により相続人と同様の扱いとなり、915条の3か月熟慮期間が適用される(通説)。
遡及効
遺贈が最初から効力を生じなかったものとして処理され、遺贈財産は相続開始時から相続人に帰属していたことになる。物権変動の局面では第三者保護(94条2項類推等)が問題となる。
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遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。
2この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
遺贈承認・放棄の催告権
遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に相当期間を定めて承認・放棄を催告できる。受遺者の態度不明による法律関係の不安定を解消する制度。
沈黙による承認擬制
期間内に意思表示しないと承認とみなされる。915条1項の相続放棄熟慮期間(沈黙=単純承認)と平仄を合わせた擬制。
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受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
規律
受遺者が遺贈の承認・放棄をしないで死亡したときは、その相続人が自己の相続権の範囲内で遺贈の承認・放棄をすることができる。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う。
趣旨
受遺者が遺贈受領か放棄かの意思決定をしないまま死亡した場合、その地位を相続人に承継させ、相続人の選択権を保障する規律。遺贈の不確定状態を解消する。
範囲
受遺者の相続人が複数いる場合、各相続人は自己の相続分の範囲で承認・放棄を選択可能。一部承認・一部放棄が可能で、各自の意思で別異の処理ができる。
別段の意思
遺言者が「受遺者死亡時は遺贈を消滅させる」旨指定していれば、994条の原則(受遺者死亡で遺贈不発生)に戻る。逆に「相続人に承継させる」旨を明示すれば本条で処理される。
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遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2第九百十九条第二項及び第三項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
撤回禁止
遺贈の承認・放棄は一度した以上撤回できない。法律関係の安定を優先し相手方の信頼を保護する趣旨。
919条2項・3項の準用
錯誤・詐欺・強迫があれば取消可能(919条2項)、家裁手続を準用(同3項)。撤回禁止の例外として取消は許される。
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包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
包括受遺者の地位
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する。遺産分割協議参加・債務承継・限定承認手続参加など、ほぼ相続人と同視される。
区別される点
通説・判例は、代襲(887条2項)は否定、遺留分(1042条)も否定。承認・放棄は915条以下ではなく986条以下(遺贈の規律)による。
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受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。
2停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。
担保請求権
受遺者は遺贈が弁済期未到来の間、遺贈義務者に相当の担保を請求できる。遺贈義務者(相続人)の資力悪化に備えた保全制度。
停止条件付遺贈への拡張
条件成否未定の停止条件付遺贈にも担保請求権を認める。条件成就までの長期間における目的物毀損・処分のリスクから受遺者を保護。
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受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
果実取得時期
受遺者は遺贈履行を請求できる時から果実を取得する。相続開始時ではなく履行請求可能時を基準とする点が重要。
遺言別段の意思の優先
遺言者が別段の意思を表示すればそれに従う。任意規定であり、遺言者の最終意思を尊重する遺言法全体の建前。
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第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
2果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
299条の準用
遺贈義務者が死亡後に支出した必要費・有益費の償還を請求できる。占有者の費用償還権と同じ規律。
果実収取必要費の控除
果実収取のための通常必要費は果実価格を超えない限度でのみ償還請求可。果実取得(992条)と費用負担のバランスを取る。
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遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。
3ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
規律
遺贈は遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは効力を生じない(1項)。停止条件付遺贈は受遺者が条件成就前に死亡したときも同様(2項本文)。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う(2項ただし書)。
趣旨
遺贈は受遺者個人を受益者とする一身専属的な無償処分であり、受遺者の死亡で目的を失うため、原則として失効させ相続人に代位させない(受遺者の相続人に承継させない)。
代襲遺贈の不適用
判例(最判平成23.2.22)は本条につき代襲相続(887条2項)の準用を否定し、受遺者の子に遺贈の地位を承継させない。遺贈は遺言者と受遺者の個人的関係に基づくとの理解。
別段の意思
遺言者が「受遺者死亡時はその子に遺贈する」旨指定すれば補充遺贈として有効。実務上は補充遺贈を明示する条項を入れることで本条の失効を回避する。
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遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
規律
遺贈がその効力を生じないとき、または放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属する。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う。
趣旨
遺贈失効時の財産帰属を相続人と定める補充規定。994条(受遺者先死亡)、986条(放棄)、996条(目的物不存在)等で遺贈が効力を生じない場合の包括的処理を行う。
相続人への帰属
失効した遺贈財産は相続財産の一部として通常の相続規定(900条以下)で処理される。包括遺贈の場合は他の包括受遺者と相続人に帰属する見解と相続人のみとする見解があり通説は後者。
別段の意思
遺言者が補充受遺者を指定していれば、その者に帰属する。実務上は重要な遺贈について補充指定を明記して995条の発動を防ぐ。
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遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。
2ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
規律
遺贈は目的である権利が遺言者の死亡時に相続財産に属しなかったときは効力を生じない。ただし権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず遺贈の目的としたものと認められるときはこの限りでない。
趣旨
特定遺贈の目的物不存在による失効を原則とする一方、他人物遺贈(997条への接続)の意思が認められれば例外として有効化する規律。遺言者の意思解釈に依拠した処理。
本文・原則失効
特定の絵画・特定の不動産等を遺贈する旨の遺言で、遺言者死亡時にその物が既に売却・贈与等で相続財産から離脱していれば遺贈は失効する。代金請求権等への代位は999条で別途処理。
ただし書・他人物遺贈
遺言者が遺贈時点で目的物の所有を予定していなかったか、所有不明であっても遺贈する意思が明確な場合(他人物遺贈の意思)、997条により遺言者の相続人が遺贈義務を負う(他人物債権遺贈として有効)。
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相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。
3ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
他人物遺贈の効力
前条但書(996条但書)により有効な他人物遺贈について、遺贈義務者は権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。原則は無効だが、遺言者が他人物であることを認識して遺贈した場合は有効。
価額弁償義務
権利取得不能・過分費用要時は遺贈義務者は価額弁償する。物の引渡が困難な場合の代替的救済として金銭による履行を認める。
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遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
現状引渡原則(2018相続法改正)
遺贈義務者は相続開始時(又は特定時)の状態で引き渡せば足りる。改正前は「瑕疵担保責任」を負う規律であったが、特定物ドグマ廃止に伴い現状引渡で足りるとされた。
遺言別段の意思
遺言者が遺言で別段の意思(例:完全な状態での引渡)を示せばそれに従う。改正により任意規定であることが明確化された。
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遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
規律
遺言者が遺贈目的物の滅失・変造・占有喪失により第三者に対し償金請求権を持つときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する(1項)。目的物が他物と付合・混和して遺言者が243条〜245条により単独所有者・共有者となったときは、合成物・混和物の所有権または持分を遺贈目的としたものと推定する(2項)。
趣旨
目的物が形態を変じた場合の遺贈の効力を維持する代位物推定。物の同一性が失われても経済的価値の継続を保護し、遺言者の合理的意思を推定する技術的規律。
1項・償金請求権代位
保険金請求権、損害賠償請求権、収用補償金等が代位対象。物上代位(304条)と類似の効果を遺贈について実現する。「推定」なので反証で別段の意思を立証可能。
2項・付合混和代位
243条等の付合・混和規定で生じた合成物・混和物の単独所有権または共有持分が代位対象となる。建材として他人の建物に付合した場合等が典型例。
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削除
削除条文(1000条)
民法1000条は削除。旧1000条は遺言関連の旧規定で、相続法改正に伴い削除された。
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債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
2金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
債権遺贈における推定(弁済受領時)
債権を遺贈の目的としたが遺言者が弁済を受けた場合、受け取った物が相続財産中に現存すればその物を遺贈の目的としたものと推定。遺言者意思の合理的推測。
金銭債権遺贈の推定
金銭債権を遺贈し、相続財産に相当現金がなくても、その金額を遺贈したものと推定。受遺者を不利益から保護するため金銭遺贈に転化させる。
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負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。
3ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
規律
負担付遺贈を受けた者は遺贈目的の価額を超えない限度でのみ負担義務を履行する責任を負う(1項)。受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となれる(2項本文)。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う(2項ただし書)。
趣旨
負担付遺贈は受遺者に一定の義務(受遺者の母の扶養等)を課す遺贈。受遺者が負担額に縛られ過大な義務を負わないよう価額限度を設け、放棄時の負担受益者の救済も用意する。
1項・価額限度責任
遺贈目的の価額(受遺者が遺贈で得た価額)を超える負担を受ける必要はない。負担が遺贈価額を超える設定がされていても、超過部分は履行義務がない。
2項・代位受遺
受遺者が放棄すれば負担の利益を受ける者(受益者)が自ら受遺者になれる。負担の継続的実効性を保障する規律で、放棄により負担が消滅して受益者が完全に保護されないことを防ぐ。
この条文の練習問題を解く
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
負担減額(負担付遺贈)
負担付遺贈の目的価額が限定承認・遺留分回復訴訟により減少した場合、受遺者は減少割合に応じて負担義務を免れる。遺贈価値と負担のバランスを保つ趣旨。
遺言別段の意思
遺言者が別段の意思を示せばそれに従う。任意規定として遺言者の意思を優先。
この条文の練習問題を解く
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
2遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
3前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
4封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
検認手続(1項)
遺言書の保管者は相続開始を知った後遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がないときに相続人が遺言書を発見した後も同様。
公正証書遺言の例外(2項)
公正証書遺言については検認手続は不要。
封印遺言の開封(3項)
封印のある遺言書は家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できない。
検認の性質
遺言書の現状確認・偽造変造防止の証拠保全手続。遺言の有効性を確定するものではない。
この条文の練習問題を解く
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
検認懈怠の制裁
遺言書を家裁に提出して検認を経ない執行、家裁外での開封には5万円以下の過料。検認制度(1004条)の実効性確保。
遺言の効力との関係
通説・判例は、検認は遺言の効力要件ではなく証拠保全手続。違反しても遺言自体は無効にならない。
この条文の練習問題を解く
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
規律
遺言者は遺言で1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができる(1項)。指定の委託を受けた者は遅滞なく指定をして相続人に通知する(2項)。受任者が委託を辞そうとするときは遅滞なくその旨を相続人に通知する(3項)。
趣旨
遺言の確実な実現のため、遺言者自身による執行者指定または指定権の第三者委託を認める。専門家(弁護士・税理士等)を執行者として活用しやすくする規律。
指定の委託
信頼する第三者に執行者選任を一任できる。委託を受けた者は適格な執行者を選任する義務を負い、選任後は相続人への通知が必要。受任者は自身を執行者に指定することも可能(通説)。
辞退の自由
委託受任者は辞退自由。辞退通知後は遺言執行者なしとなり、家庭裁判所選任(1010条)が必要となる。執行者指定義務違反による相続人への損害賠償責任は通常生じない(通説)。
この条文の練習問題を解く
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
規律
遺言執行者が就職を承諾したときは直ちにその任務を行わなければならない(1項)。遺言執行者は任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならない(2項)。
趣旨
2018改正で2項を新設。相続人が遺言の内容を知る権利を法定し、遺言執行者の透明性を高めた。1項は委任受任者の善管注意義務(644条)と並行する任務遂行義務を定める。
通知義務(2項・改正)
全ての相続人に対し遺言の内容を通知する義務。これにより相続人は遺留分侵害額請求(1046条)等の権利行使を適切な時期に検討できるようになる。通知違反は損害賠償責任を発生させる。
任務開始
就職承諾は明示・黙示いずれも可。承諾後直ちに財産目録作成(1011条)、相続財産管理(1012条)等の具体的任務を遂行する義務が生じる。
この条文の練習問題を解く
相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
2この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
執行者就職の催告権
相続人その他の利害関係人は、指定された遺言執行者に相当期間を定めて就職承諾の確答を求めることができる。執行者地位の確定を促す制度。
沈黙による就職擬制
期間内に確答しなければ就職承諾とみなされる。執行不在による相続事務の停滞を防ぐ。
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未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
規律
未成年者および破産者は遺言執行者となることができない。
趣旨
遺言執行は財産管理・処分権限を含む重要な事務であり、行為能力や信用が要求される。未成年者は能力不十分、破産者は財産管理能力に懸念があるため一律に欠格とする。
欠格の範囲
未成年者は18歳未満(2022改正後)。破産者は破産手続開始決定を受け復権を得ない者。成年被後見人・被保佐人・被補助人は本条の欠格事由でないが、能力不足が問題となれば家庭裁判所が解任可能(1019条)。
違反指定の効果
欠格者が指定されても指定自体は無効(通説)。1010条により家庭裁判所選任に移行する。欠格者が承諾し執行を開始しても、その行為は無権限行為として無効となる。
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遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
規律
遺言執行者がないとき、またはなくなったときは、家庭裁判所は利害関係人の請求によって遺言執行者を選任することができる。
趣旨
遺言者が執行者を指定していない場合や、指定執行者が死亡・辞任・解任で欠けた場合に、家庭裁判所が選任して遺言の実現を確保する補充的規律。
請求主体
利害関係人=相続人、受遺者、遺言者の債権者、受遺者の債権者等。直接の利害関係を要する。家庭裁判所は職権で選任できず、必ず請求が必要。
選任の任意性
条文上「できる」とあるとおり選任は家庭裁判所の裁量。執行を要する具体的事務がない場合(既に相続人が遺言内容を実現済み等)は選任しないこともある。
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遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
財産目録作成・交付義務
遺言執行者は遅滞なく相続財産目録を作成し相続人に交付しなければならない。執行内容の透明性確保と相続人の監督権の前提。
公証人作成・立会作成
相続人の請求があるときは、立会いをもって作成し、又は公証人に作成させる必要がある。財産目録の正確性確保のための制度。
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遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
規律
遺言執行者は遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(1項)。遺言執行者がある場合、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる(2項)。644条(善管注意)、645条〜647条(報告・引渡し・利息)、650条(費用償還)を準用(3項)。
趣旨
2018改正で1項に「遺言の内容を実現するため」の文言を追加し、2項で遺贈履行の独占権限を明示。遺言執行者の権限を相続人代理人説から脱却させ、独自の権限主体として位置づけた。
2項・遺贈履行独占
改正前は判例(最判昭和43.5.31)で執行者ある場合相続人の遺贈履行が不可能とされていたのを明文化。相続人による遺贈履行は無権限行為となる。
委任規定準用
善管注意(644条)、報告(645条)、受領物引渡し(646条)、消費利息・損害賠償(647条)、費用償還(650条)が準用される。委任受任者と同様の権利義務を持つ。
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遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2前項の規定に違反してした行為は、無効とする。
3ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
4前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
規律
遺言執行者がある場合、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(1項)。違反行為は無効。ただし善意の第三者に対抗することができない(2項)。前2項は相続人の債権者(相続債権者を含む)が相続財産について権利行使することを妨げない(3項)。
趣旨
2018改正で2項・3項を新設・改正。遺言執行者の権限を相続人の処分から保護する一方、取引安全(善意の第三者保護)と債権者の権利行使を両立させる。
2項・善意第三者保護(改正)
改正前は相続人の処分は絶対無効(最判昭和62.4.23)だったが、改正で善意の第三者には対抗できないとされ取引安全に配慮。第三者の善意(執行者の存在を知らない)は登記名義変更等を行った時点で判断。
3項・債権者の権利行使(改正)
相続債権者・相続人の固有債権者は本条1項の制約を受けず、相続財産に対する強制執行等が可能。執行者の権限と債権者保護のバランスを明示した。
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前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。
4ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
5前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
規律
1011条〜1013条は遺言が相続財産のうち特定財産に関する場合はその財産についてのみ適用(1項)。特定財産承継遺言があったときは執行者は899条の2第1項の対抗要件を備えるための必要行為が可能(2項)。預貯金債権の場合、執行者は払戻請求・解約申入れができる(3項本文)。解約申入れは預貯金債権全部が特定財産承継遺言の目的の場合に限る(3項ただし書)。被相続人が別段の意思を表示したときはその意思に従う(4項)。
趣旨
2018改正で大幅追加。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)について執行者の権限を明確化。判例(最判平成3.4.19)で対抗要件具備や預貯金処理の可否が不明確だったのを立法的に解決。
2項・対抗要件具備権限(改正)
特定財産承継遺言の受益相続人が899条の2の対抗要件(登記・通知等)を備えるための行為を執行者ができる。執行者による登記申請が可能となり、受益相続人の権利保護が強化された。
3項・預貯金処理(改正)
預貯金債権について執行者が銀行に対し払戻請求・解約申入れが可能。解約は預貯金全部が遺言対象の場合のみで、一部の場合は払戻しのみ可能とする限定。
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遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
規律
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
趣旨
2018改正で改正。改正前は「相続人の代理人とみなす」とされていたが、執行者の独立性を強化するため代理構成を脱却し、行為の効果が直接相続人に帰属する旨を規律。
代理構成からの脱却
改正前は相続人代理人説に立っていたが、相続人と執行者の利害対立(遺贈履行vs相続人の利益)で代理構成に無理があった。改正で執行者を独自の権限主体として位置づける。
効果帰属
執行者が権限内で執行者として示してした行為(顕名)の効果は相続人に直接帰属する。執行者個人には帰属しない。顕名なき行為は執行者個人の行為となる可能性がある。
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遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
3前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
規律
遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う(1項)。第三者に任務を行わせることにつきやむを得ない事由があるときは、執行者は相続人に対し選任・監督についての責任のみを負う(2項)。
趣旨
2018改正で改正。改正前は復任に「やむを得ない事由」を要件としていたが、執行者の柔軟な事務遂行を可能にするため、自己責任での復任を原則として認める方向に転換した。委任の復任規律(644条の2)と並行。
1項・自己責任復任(改正)
改正で「やむを得ない事由」要件を撤廃。執行者は自由に第三者に任務を行わせられるが、その第三者の行為について全責任を負う(自己責任)。遺言者が別段の意思を示せばそれに従う。
2項・やむを得ない事由の特則
やむを得ない事由(執行者の傷病・専門外事項等)がある場合、責任は選任監督の懈怠のみに軽減される。これは旧法の規律を残した部分。
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遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。
2ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
3各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
規律
遺言執行者が数人ある場合、任務の執行は過半数で決する(1項本文)。ただし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う(1項ただし書)。各遺言執行者は1項にかかわらず保存行為をすることができる(2項)。
趣旨
複数執行者がある場合の意思決定方式。共同代理(同時行使)ではなく多数決によるとする規律で、執行の柔軟性を確保する。委任の共同受任(670条の組合準用等)と異なる独自規律。
過半数決定
全員の同意は不要だが、過半数の合意が必要。可否同数の場合は決定なし。執行者間で意見不一致の場合は家庭裁判所への調停申立て等で解決を図ることになる。
保存行為の例外
相続財産の維持・劣化防止等の保存行為は各執行者が単独で実行可能。緊急性のある修繕・債権の時効中断手続等が該当。共有物の保存行為(252条5項)と並行する規律。
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家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。
2ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
3第六百四十八条第二項及び第三項並びに第六百四十八条の二の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
規律
家庭裁判所は相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし遺言者が遺言に報酬を定めたときはこの限りでない(1項)。648条2項・3項および648条の2を準用(2項)。
趣旨
遺言執行は無償が原則だが、専門家への執行依頼が一般的になっているため家庭裁判所による報酬決定を可能にする。遺言指定報酬が優先するのは遺言者の意思尊重。
報酬の決定
家庭裁判所は相続財産の規模・事務の複雑度・期間等を考慮して報酬を裁量で決定。実務上は弁護士会基準・税理士会基準等を参考に算定される。執行者の請求が必要。
委任規定準用
648条2項(後払原則)、648条3項(割合報酬・履行不能時)、648条の2(成果報酬)が準用される。これにより執行途中で任務終了した場合も既履行割合に応じた報酬請求が可能。
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遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
規律
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は家庭裁判所に解任を請求することができる(1項)。遺言執行者は正当な事由があるときは家庭裁判所の許可を得て任務を辞することができる(2項)。
趣旨
執行者の地位の安定と利害関係人の保護のバランス。委任の相互解除自由(651条)と異なり、解任・辞任ともに家庭裁判所の関与を要件として濫用を防止する。
解任事由
①任務懈怠(執行の遅延・財産目録不作成等)、②その他正当な事由(執行者の能力欠如・利害対立顕在化・健康悪化等)。利害関係人の家庭裁判所への請求が要件で、職権解任は不可。
辞任要件
辞任には正当事由+家庭裁判所許可の両方が必要。家庭裁判所許可なき辞任は無効。これは執行の継続性確保のための制限で、執行者の一方的離脱を防ぐ。
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第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
委任終了規定の準用
遺言執行者の任務終了に654条(緊急処理義務)・655条(任務終了の通知)を準用。委任類似の信認関係であることから類似規律を適用。
終了通知義務
655条準用により、相続人に終了原因を通知するまでは終了を対抗できない。相続人保護のための要件。
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遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。
2ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
執行費用は相続財産負担
遺言執行に関する費用(執行者報酬・公証人費用・財産目録作成費等)は相続財産から支出する。執行が相続人全員のための行為であることの帰結。
遺留分への配慮
ただし執行費用によって遺留分を減ずることはできない。遺留分制度の優位を確認する規定。
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遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
遺言撤回の自由
遺言者はいつでも遺言の方式に従ってその遺言の全部または一部を撤回することができる。
撤回権放棄の禁止(1026条)
遺言者は遺言を撤回する権利を放棄することができない。撤回放棄特約は無効。
性質
遺言者の意思の最終性保護。遺言は要式行為であるが撤回も同じ要式(同一方式でなくても可、別方式でも撤回有効)。
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前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
前後の遺言の抵触(1項)
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
遺言と生前処分の抵触(2項)
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するときも前項と同様に撤回擬制。
「抵触」の判断
両者を併存させると一方の意思が実現できなくなる関係。判例は具体的事情を考慮して判断(最判昭56・11・13等)。
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遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。
2遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
遺言書破棄による撤回擬制
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは破棄部分について撤回擬制。新たな遺言不要で撤回効果が生じる。
遺贈目的物破棄による撤回擬制
遺言者が故意に遺贈目的物を破棄したときも撤回擬制。物理的破棄を遺言者の撤回意思の表れとみなす。
この条文の練習問題を解く
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。
2ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
撤回の撤回・取消による不復活
撤回された遺言は、撤回行為が撤回・取消・無効となっても効力を回復しない。法律関係の安定確保。
錯誤・詐欺・強迫の例外
撤回行為自体が錯誤・詐欺・強迫による場合は元の遺言の効力が回復する。意思の自由侵害を救済する例外。判例(最判昭和43.12.20)は錯誤の場合も復活を認める方向。
この条文の練習問題を解く
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
撤回権放棄禁止
遺言者は遺言撤回権を放棄できない。遺言者の最終意思尊重原則を担保し、生前の不当な拘束を防ぐ。
強行規定性
受遺者との合意で撤回権放棄を約束しても無効。遺言の本質的属性として撤回自由は不可侵。
この条文の練習問題を解く
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。
2この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
負担不履行による取消請求
負担付遺贈の受遺者が負担義務を履行しないとき、相続人は相当期間定めて催告し、期間内に履行なければ家裁に取消請求できる。
家裁の取消権
541条類似の解除構造だが家裁の関与が必要。相続関係の重大変動につき公的判断を要求。判例(最判昭和58.4.5)は取消判決確定により遡及的に遺贈無効となるとする。
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